The 13th Lab. −第13研究室−

聖和学園短期大学さんで、「地域教育科目」のお試し講座をさせていただいた。お預かりした科目は行政職出身の同短大の鳴海学長が担当している「自治体研究」。行政職員を目指す学短大1年生むけの、いわゆる「公務員対策講座 」だ。
とはいえ、私が就職対策の講義をするはずもなく、お預かりした時間で精一杯アクティブラーニングへの入り口を切り開いた感じだ。

1 テーマは指定管理者制度

行政の仕事をある程度俯瞰するために選んだ題材が指定管理者制度。自分自身がある程度経験したものであるというのも一つの理由にはなるが、もっと大事な理由として以下の点があげられる。

  1. 自治体の置かれている環境をある程度端的に表現している
    従来の行政の仕組みが機能不全に陥る理由を考えるきっかけになる制度で、NPM(ニューパブリックマネジメント)の考え方などを学ぶ入り口にも使える。
  2. 様々な用語が使われる
    指定管理者制度を学ぼうとすると様々な行政用語の意味を知る必要がある。たとえば「行政処分」という言葉。なんとなく罰のような印象を与える言葉だが、実際は全く意味が違う。日常で使う言葉に近い言葉ほど定義をhがっきりさせないと自分や他人の考えをミスリードする。
  3. 経営の視点が入る
    ここはすごく大事。指定管理者は、公の施設をその設置目的に総形で効率的、かつ効果的に運営することが求められる。そこには、財務、顧客、内部マネジメントといった経営の視点が必要になる。特に、収益性の確保は大きな課題になる。
  4. 民間と行政の協働が必要
    これはもっとも重要な視点。指定管理者制度を学ぶ中には、協働を基本姿勢とした行政運営のヒントが 山盛りある

ほかにも、深く突っ込めば色々面白みもあるのだが、そこまで進めると1学期まるまるの時間が必要になる(やってもよいけど・・笑)。
今回はその中で、自治会の置かれている環境と経営の視点を中心に考えるような授業設計をした。協働については、直接は扱わずふわっとした空気の中で感じる程度に留めた。ケース教材は、かつて私が館長を務めた大阪府立青少年会館をモデルにした事例を題材として作成した。

内容としては、指定管理者制度の背景、大規模青少年施設が置かれていた状況、指定管理者による取り組みの三点をまとめた。それぞれ、制度の理解、環境の理解、経営の理解を進めることをイメージしたものだが、受講する学生の既有知識の量によってどこがクローズアップされるかは変わってくる。今回は、短大の1年生ということで、経営、特に人のマネジメントに係る部分に学生の意識が向く傾向が強くなった。

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2 一回目の講義

講義は11月14日と21日の二回に渡って実施した。
講義に先立って、事前にケース教材を配布し、当日までに読んでくること、わからなかった点に下線を引くなどして、疑問をはっきりさせておくことを求めた。このあたりの要求水準はは学年や専攻、またこういった学び方に対する練度に応じて調整するのがよい。
また、全員が事前課題に取り組まない可能性が極めて高いので、そのことも想定して当日にも最低限の疑問点を洗い出せる時間を作っておくようにした。

一回目の講義では、

  1. チームビルディング
  2. ケース教材についての一問一答
  3. 現状を理解するためのディスカッション

の三点に取り組んだ。
協同学習などに馴染んでいない学生の場合、チームビルディングは、かなり緩めにセットするのがコツだ。授業に先立って「なるべく仲の良い人同士で近くに座ってください」といった指示をだすのも、ワークへの心理的なハードルを下げるためには必要な時期もあるだろう。チームというよりは、グループの状態でも最初は良しとすべきだ。

一問一答タイムは、ケース教材の内容に関する疑問点を学生が示して教員が答えるもの。チーム(実質的にはグループ)内で、ケース教材に対してそれぞれのメンバーが持った疑問点を共有し、その中でもっとの教員に聞きたいものをA3の白紙に書いてクラス全体に向けて提示する形式で行った。
この形式のメリットは、学生感で疑問を持つポイントが違うことを理解できること、かつ、ものによっては共有した時点で誰かが答えを持っていて疑問が解消する場合があるということ。同じ学生の立場で、一歩先を考えられる人がいるという刺激は教員が多くの言葉を費やすよりもよほど効果が高いものだ。
質問に対しする答え方も少し工夫する。調べればわかるようなことを聞いてきた場合、疑問を持ったということ自体を褒め、質問に答えると同時に、何を調べれば自分で答にたどり着けるかを伝える。
学生自身が調べても浅い理解しかできないような事柄の場合、少し丁寧に答える必要があるが、そのような質問は予め予想できることも多い。今回の事例では「指定管理者制度」の意味や詳細について、学生たちが適切に理解できる程度にまとめられた資料をあたることは難しいため、自分で調べる際のガイドになるような資料を用意した。
講義で取り扱いたいテーマに合った質問が出た場合、たとえ自分の当初女帝と少し違っていても、その質問から残りの時間の講義やディスカッションを広げていく。講義というのは準備を十分にした上で、当日の状況に応じて変化させるもので、それができて初めて一人前の教員と言えるし、研修講師とは異なる部分でもある。

現状理解のディスカッションでは、ケースから読み取れる施設の現状について、思いつく限りの事柄を付箋に書き、それらをまとめてカテゴライズしていくワークを行った。KJ法を一部取り入れたワークだ。こういったワークに慣れていない学生の場合、ワークの手順をステップバイステップで明確に示す必要がある。また、いきなりだとできないこともあるので、「リハーサル」的なワークを一度やってから「本番」のワークを行うのも効果的だ。
今回は、「指定管理者制度導入前にこの施設が抱えていた問題点」について「リハーサル」ワークを行った後 、共有と議論の手順を説明し、それにそって「指定管理者制度導入後のこの施設の改革の原動力と今後のリスク」について議論した。
この時点ではエビデンスがあまりなく、自分の知識と経験をもとに議論するため、あまり深い話にはならない。次回までに自分の考えを補強するような材料を探すように支持をして1回目の講義は終了した。

3 二回目の講義

二回目の講義のゴールは、ケース教材で扱っている施設の課題を明らかにすること。事前に、議論の種になるような資料を下調べしてきていると効果的だが、そうでない場合でも対応できるように、ケース教材の内容を思い返しつつ、将来像、現状、課題の関係を理解してもらうためのミニ講義を最初に行った。その上で、

  1. 将来像を描くための「館長インタビュー」
  2. 将来像と現状から課題を導き出すディスカッション
  3. 意見の共有

という流れで講義を進めていった。

「館長インタビュー」は、施設の将来像を館長(要するに私)に直接聞いてみようというもの。事前に一人10個ずつ付箋に質問を書き、チーム内で優先順位を決めてもらった。その後、30分余の時間をかけて全チームが館長に質問を投げ、将来像と現状に対する理解を深めていった。
「館長インタビュー」の目的は、一次資料からエビデンスを見つけることに慣れていない低年次の学生でも根拠を持った議論ができるようにすることで、少なくとも館長インタビューの中で触れられていたことを根拠として、主張を構成できるようにしてもらった。

それに続くディスカッションでは、施設の課題を導き出すために、チームメンバーでを共有し、わからないところを互いに質問し合いながら理解を深めていくことに取り組んだ。議論のやり方は1回目と同様に付箋を活用したものだが、よく似たワークでも少しずつ条件を追加している。今回のディスカッションでは、互いの主張を共有した上で、「最も重要度の高いもの」を根拠とともに選び出すということに取り組んでもらったが、これもいきなりだと難しいため、前の回の講義の中でかんたんな段階から練習するようにした。

また、議論慣れしていない学生にたいしては「それって具体的にはどういうこと?」という魔法の質問に挑戦してもらうことで、抽象的な議論ではなく具体的な議論の練習をしてもらった。
最後は、各チームで選んだ「課題」の共有。ほとんどのチームは、実際に渡しが青少年会館を運営した2年目くらいに感じた課題に近いものを課題としてしめしてくれた。また、ひとつのチームは、私自身が当時気づかず、言われて初めて「なるほど!」と唸るような課題を示してくれた。

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最後に

この二回の講義では、ある程度正解の見えているケース教材を用いて、低年次の学生が最低限の根拠を伴う議論を行い、適切な課題設定ができるようになることを目指した。最終的なパフォーマンスを見る限り、どのチームも適切な課題設定にたどり着けており、当初の目的は達したと言える。
しかし、これはあくまで主体的な学びへの入り口。カリキュラム全体のなかでアクティブラーニングをどう組み立てていくかは今後の課題だ。なんとか事業期間中に一定の成果につながるようなお手伝いができればと願っている。

短大一年生に対する形式的アクティブラーニングの導入第13研究室で公開された投稿です。

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