西粟倉村地方創生推進班の創発型地域経営への挑戦

岡山県の西粟倉村で、村役場の職員のみなさんが自らのプロジェクトを立ち上げ実行する取り組みに、二年間関わる機会を頂いた。
創発的戦略の考え方を正面から受け入れていただいた事例でもあり、同時に行政職員の挑戦の事例としてとても貴重なものなので、二年間の歩みを少しまとめておく。
あくまで私の、あるいは弊社の視点でまとめたものであり、視点を変えると違った取り組みの姿や価値が見えてくるということを、はじめにお断りしておく。

物語の始まりは2017年5月。
エーゼロ株式会社の牧さんと林さんから、西粟倉村で進めている「ローカルライフラボ」という取り組みで、地域のプロジェクトに参画する村外の人を募集するために、「こんなテーマで研究活動に取り組んでみたら」というテーマ候補を出すための研修をしてほしいというご依頼だった。

対象となったのは、西粟倉村役場「地方創生推進班」の12名の皆さん。
一般行政職員30名ほどの役場の3分の1に当たる人たちだ。
彼らが、勤務時間終了後に研修を受け、村の中で挑戦できそうなテーマを見つけるための方法とプロジェクト設計の手法を学ぶというのがスタートライン。
そのための「テーマワーキング」を実施することになった。

1. 行政職員が自分のプロジェクトを生み出す

第1回のテーマワーキングは2017年6月。
目的は、参加者の位置づけの確認。

行政職員は地域のチャンジ・エージェント(改革の促進者)

であるという観点を示し、創発的戦略の概念と、そこでイノベーションの促進者として重要な

  1. 新たな挑戦の目を見出し仮説検証を繰り返す
  2. 仮説検証の結果を評価し、全体戦略に取り入れる(正式化する)

という二種類の役割について紹介し、行政職員としての機能を拡張することに意識を向けてもらった。

そのうえで、プロジェクトテーマの定め方についてのお話をし、あえて、総合計画に縛られない

自分の視点や問題意識からのプロジェクト

の設計に取り組んでもらった。

二週間後、12名の「地方創生推進班」のメンバーから、21件のテーマが提案され、そこから12件が実際に研究制を募集するテーマとして選定された。
それだけ、普段から村の将来について考える機会が多いということの表れなのだろうと感じた。

この時期、「地方創生推進班」のメンバーは、村のグランドデザインの再構築という大きな仕事にも取り組んでいた。
2008年に打ち立てた「百年の森構想」から10年が経過するのを前に、新たな旗印、そしてそれに紐づくアクションを検討する会議を繰り返していた。

そこでは、「森林」、「構想」、「むら」、「挑戦」といった言葉が多く挙げられ、そこから次の目指すべき旗印が編み出される状況になっていた。
この取り組みは、最終的に「生きるを楽しむ」というこの村らしさを端的に表現する言葉として結晶した。

生きるを楽しむ

そんな中開かれた9月のテーマワーキングは、メンバーそれぞれのプロジェクト案を互いにブラッシュアップする回とした。
自分起点でプロジェクト設計をしたからこそ、それぞれのプロジェクトには個人的な価値観や想いが込められている。
それらに対して、互いがどう応援できるかということを考えることで、互いの問題意識を理解し、共感・協働しあえる関係を作り、その中でより良いものを選び出すプロセスを仕込み始めていった。
それには数あるプロジェクトが淘汰される環境づくりであった。

淘汰というと、弱いものや不要なものが取り除かれるイメージだが、複雑適応系マネジメントでは、

エージェント間の相互作用の中で複製したい他者の戦略を選択する

  • エージェント:そのシステムの中で活動する主体
  • 戦略:エージェントの行動パターン
  • 相互作用:互いの戦略とその結果を見せ合う行為
    相互作用を通して、エージェントは他のエージェントの戦略を取り入れたり破棄したりする

という意味を持つ。
平たく言うと、「みんなが真似したいもの、良さげなものを残そうとする」のが淘汰の意味。
はじめは自分の価値観で残すべきものを選ぶが、やがては全体戦略に基づく、ある程度共通した(あくまで、「ある程度」でよい)評価基準をもとに淘汰が進むようになる。
この、相互作用と淘汰のメカニズムが、創発的戦略の基礎になる。

その後、株式会社エーゼロのみなさんのファシリテーションによって、「地方創生推進班」で特に力を入れる「シンボルプロジェクト」四つが選ばれ、次年度に実行されることになった。

選ばれたプロジェクトは、以下の通り。

  • 地域とおかあさんといっしょに作る「心安らぐ時間」プロジェクト
  • 「あわくらんど」第二駐車場に屋台村プロジェクト
  • 科学と非科学飽くなき探究プロジェクト
  • あわくらみらいアカデミープロジェクト

これらをそのまま当初計画通りに進めるだけではなく、途中のプロセスの中で生まれてきたものをうまく取り込み、プロジェクト自体を進化させることが2018年度のテーマとなった。

ここまでのプロセスで重要視したのは、

  1. 自分自身の問題意識からスタートすること
    定められた総合計画に基づいて実施する行政事業ではなく、自らの問題意識を元に、自らの理由や必然性をを持って他人に語ることができるプロジェクトとする
  2. 全体戦略から大きく離れていないこと
    自分起点といえども、村の将来像としてある程度共有されたものから大きくはずれていると独りよがりの取り組みになる
    村のビジョンや総合計画の方向性からあまりにもかけ離れないようにする
  3. 互いにオープンに見せ合い評価し合うこと
    でき上がったものに意見を求めるのではなく、互いのプロジェクトの背景にある問題意識からプロジェクトの内容、不足している資源などをさらけ出し、互いに応援しやすい環境をつくり、協働が進みやすい状態にする

の三点。
ここまでで創発的戦略が生まれやすい下地ができたと言える。

2. 決めて、やる!

2018年度は、こうして生まれた四つの「シンボルプロジェクト」を実行するという段階になった。

この段階で意識すべきことは、実行する中で見えてくる新しい可能性をプロジェクトの中に取り込むための仕掛けを埋め込んでおくこと。
それは、自分や他者の取り組みを最終的に総合戦略のような全体構想の中にどのように埋め込んでいくか、すなわち「正式化」のプロセスを体得することにつながる。

そのために、

  1. 何をするか一旦は決め、計画通りに実行する
  2. その過程で出会ったこと、起こったことを意味づけし取捨選択する
  3. それをもとにプロジェクトの内容やゴール、場合によっては目的も修正する

事が重要で、事業をぐんぐん進める部分と、一旦立ち止まって、取り組んできたことのふりかえりと意味付けを行い、筋や要素を捉えて全体の流れに持ち込むようにする必要がある。

これは、通常のプロジェクトマネジメントの流れとは大きく異なるもので、計画通りにプロジェクトを進めるだけではなく、最終的に計画と違ったところにいくということも許容したマネジメントの手法になる。

ただし、単純に進捗が遅れて目標に届かないということでは意味がない。
そうならないために、計画通りに進めつつ、時期を定めて状況を振り返り、そこで必要に応じて修正するというメリハリが求められる。
そこには、単なる進捗管理ではなく、計画どおり粛々と進めながら、当初想定しなかった面白い展開の可能性を見出すという考えがある。

そこで、エーゼロの皆さんや、管理職の皆さんと考えて、2018年度の方針として決めたのが

「決めて、やる!」

ということ。

当初想定しなかった面白い展開の可能性を見出すための唯一の方法は、考えることではない(論理的にありえない)。
一旦、「これをやる!」と決め、それを実行することにより、どんなゆらぎが周囲に発生するかを見定め、その中から新たな可能性を見出す以外に方法はない。

そのため、2018年度のテーマワーキングは、ひたすら「振り返り」、「淘汰」、「計画修正」を繰り返すことになった。

この間、「地方創生推進班」のメンバーの中では、

創発的戦略

がひとつの共通言語となり、次から次へと新しい可能性をプロジェクトに実装していくということが、ごく普通に行われるようになっていった。

ちょうどその頃、副村長や村の管理職の皆さんに、テーマワーキングで実践していることや目指しているものの説明にもうかがったが、皆さんからは

そんなに違和感がない

と言われて、「さすがは先頭を走る田舎やなぁ」と勝手な感慨に浸りつつ、プロジェクトのお手伝いを進めていった。

9月には、創発的戦略を進めるための複雑適応系マネジメントに関するミニ講義で、メンバー間のやり取りの意味づけと方向づけを行い、メンバーの活動の淘汰とスピードアップを図った。
普段から現場で活動している人ばかりなので、理論をお話したときの飲み込みがすこぶる早く、それまで無意識または経験値によって動いていたものに、理論的な意味づけをし、他者への質問やアドバイス一つをとっても、村全体の動きの中で各プロジェクトをどう位置づけ、意味づけていくかを考えるものになっていった。

12月には、「おせっかい力の発揮」と題して、各プロジェクトを「地方創生推進班」の中だけに収めずに、他の部署や役所の外に広めていくことに意識を向けてもらった。
どのプロジェクトも、先々の「手離れ」を考えておく必要がある。
そのためには村内の様々な取り組みを知り、このテーマワーキングで実践してきたような関わり方をして、より広い範囲でのやり取り(相互作用)と淘汰を進めていくことが求められる。
そして、行政スタッフは、時には自ら実践しつつ、時には伴走し、必要な資源を連結し、政策を生み出していくという、コーディネーターの役割を担うことになる。
そんな状態を今からイメージし、村の将来にとって必要なプロジェクトや事業への関わり方を少し意識してもらうようにした。

途中、要所要所で「地方創生推進班」を率いる惨事や課長、エーゼロのみなさんが、メンバーの人達とじっくり関わりを持ち、またメンバー同士でも互いに支援し合いながらプロジェクトが徐々に変わりつつ進められていった

そして、2019年2月。
四つのシンボルプロジェクトの進捗が報告された。

  • 地域とおかあさんといっしょに作る「心安らぐ時間」プロジェクト
    お母さんの心♡休まるサポートプロジェクト
    顔のみえるつながりにより子育てしやすい村づくりを目指すプロジェクトとして、今は託児ボランティアに力を入れている。
    このプロジェクトは実際に動いている中で、地域の人のリアルなニーズを理解し、問題意識がどんどん深まるとともに、多くの応援を得られるように育ってきた。
    今後の正式化と地域への展開がイメージしやすいプロジェクトに育っている。
  • 「あわくらんど」第二駐車場に屋台村プロジェクト
    なぜか光り輝いている村プロジェクト
    夜に飲み歩く場所がほしいという独身男性職員の声からスタートしたプロジェクト。9月には「にしあわくら屋台村」を開催し、5月に第二回を開催予定。
    「生きるを楽しむ」を具現化するプロジェクトとして進んでいく予定。
  • 科学と非科学飽くなき探究プロジェクト
    ローカル研究所プロジェクト
    村内で様々なジャンルの研究・実証実験が行われ、それらが、世界中で抱える課題の解決の糸口になっているような状態を目指している。
    村との関わりの中で、どんなテーマの研究がどのように進んでいくのか、モデルを示せるようになるととワクワクする人が増えるのではないかと思う。
    私自身がここの研究コーディネーターをやってみたいという衝動に駆られるプロジェクトだ。
  • あわくらみらいアカデミープロジェクト
    ⇒このプロジェクトは名称が変わらなかった
    社会で活躍できる人を地域で育てるための仕組みづくりに取り組んでいる。
    「生きるを楽しむ」をテーマに、中高生と村内の大人が語り合う「だっぴ」というイベントに取り組みつつ、公立の学校や、学校支援コーディネーターなどと、人材教育の中心となる機関を作るべく動いている。

これらの報告を踏まえて、私からは、改めて複雑適応系マネジメントの基本的な方法、特に、どのように淘汰を進めていくかという点についてお話をした。

行政職員は、地域の中で起こっている様々な出来事のうち、地域をよりよい方向に進めていくであろうものを見つけるアンテナを張り、必要に応じて政策に転換する「正式化」というプロセスを担う必要がある。
それは、自分が強い問題意識を持って始めたことでも同様だ。
今回のプロジェクトも、更にブラッシュアップを重ね、淘汰を進めて、いずれは他の行政職員が地域住民との協働の中で実行し育てていくようにしなければならない。
「地方創生推進班」の皆さんには、そのためのコーディネート機能を持つ行政職員になってもらうことを期待し、役所を含む村全体が常にイノベーションを生み出す創発形組織になってくれることを願っている。

地方創生推進班のみなさん

ここに記した「地方創生推進班」の取り組みは、

自治体職員による創発型地域経営

の、日本で最初の事例だ。

その、誰も取り組んだことがないようなことに、リーダーの上山参事を始めとする「地方創生推進班」の皆さんやエーゼロ株式会社の皆さんと、互いに支え合い助け合いながら二年間取り組んできた。
前半は「一体どこに向かっているのか不安だった」と、上山参事やメンバーのひとりでもある萩原課長から後で聞かされ、「汗顔の至り」というのを実体験することになった。
そんな中、ともに二年間走ってくださった皆さんに、改めて心からの謝意を送りたい。

本当にありがとうございました。
またお役に立てる機会があることを心から願っています。

「地方創生推進班」の挑戦の様子は

で紹介されているので、よかったらご覧頂きたい。
特に牧さんは「創発型の地域経営」という言葉を編み出し、さらにわかりやすく「行き当たりばっちり」という表現をしていて、とてもわかりやすい。
書籍の他の部分も示唆に富む話ばかりなのでおすすめだ。

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