社会を複雑適応系として捉える 複雑適応系とよばれるシステムには、「周囲との相互作用を通して自らの行動ルールを変化させる(これを学習という)」ことができる要素が互いに相互作用することで全体の挙動が決まるシステム。
そのひとつひとつの要素は「エージェント」と呼ばれる。 エージェントは、周囲の他のエージェントの行動の結果を見て、自分の行動ルール、すなわち戦略を修正する。
その際、戦略をどのように決めるかという戦略形成の方法、すなわち、メタ戦略には、「知識型」と「探査型」の二種類がある。

「知識型」は最も環境に適応した「正解」を活用しようとする方法。突然変異率が低い(要するに、変化が小さい)環境で、初期段階で成功戦略がはっきりしている場合に効果的な戦略形成の方法だ。大量生産大量消費社会の企業戦略の形成は基本的にこの方法でよかった。

「探査型」は、環境に適応した解を試行錯誤を通して見出そうとするもの。突然変異率が大きく、従来の戦略がすぐ陳腐化するような状況ではどうしても必要になる。ただし、試行錯誤とその結果を評価するのに時間がかかると全く意味を成さないので、システムからの迅速なフィードバックが必要になる。

これら二つの戦略は、状況によって組み合わせるものでどちらが良くてどちらが悪いというものではない。ただし、どのような組織や集団でも、時間の経過とともに「知識型」のメタ戦略が優位に立つようになる。理由は以下のとおりだ。

  1. 「探査型」で成功した場合>>その成功に依存し、知識型にシフトする
  2. 「探査型」で失敗した場合>>探査そのものに対する外圧が大きくなり試行錯誤が難しくなる
  3. 「知識型」で成功した場合>>成功に依存し同じ仕組を繰り返す

「探査型」が求められるのは、「知識型」の戦略形成がうまく行かなかった時だ。従来の戦略がことごとく失敗し、成功戦略が見えない状況になってはじめて「探査型」の必要性が声高に語られるようになるが、それからでは遅い。

「知識型」がうまく作用している間に「探査型」が一定の割合で機能するように組織や集団の自由度を高めておく必要がある。 ここまででコーディネーターの役割がひとつ見えてくる。それはひとことで言うと 「知識型」が優位に立っている既存のシステム(組織や集団)のなかで「探査型」の取り組みが十分に行われるような環境を整備し続けること となる。 さて、それは具体的にはどういうことだろうか? その問いに対する解が、システムとしての組織や集団を、ある方向へ誘っていく「ハーネシング」という取り組みだ。

創発を引き起こすハーネシング

複雑適応系と呼ばれるシステムの特徴のひとつに「創発」と呼ばれる現象がある。 これは、 要素間の局所的な相互作用の結果、それぞれの要素単体では持ち得なかったシステム全体としての性質を持つようになることと定義される。 誰かが設計しなくても、それぞれのエージェントが周囲の環境に適応しているうちにシステム全体の大きな動きが決まっていくというものだ。

ただし、ある程度の幅を持って、全体を方向づけることはできる。これが複雑適応系のマネジメントだ。 具体的には、そこに参画する人たちの対立を前提とした枠組みで、協働と淘汰による戦略の進化を促すために

  1. 多様性の確保 異なるパワー(影響力)、資源、知識が存在することを、①認識して参加を誘発、②「軋轢の歴史」を踏まえて参加を誘発することで、それぞれのエージェントの戦略の変化のバリエーションが大きい状態を作り出す
  2. 「唯一の場」づくり 枝葉を落とした議論の場のスタンダードが存在する状態=「この話はここでしかできない」状態を作り出す
  3. 透明性 プロセスとアウトプットの透明性が局所的な相互作用を促進する そこには、①原則の共有、②前提の共有、③プロセスの共有、④結果の共有といったファシリテーションの基本的な考え方が含まれる

の三つをマネジメントすることになる。 こういったマネジメントを、ドライバーが車を完全に操作するようにシステムをコントロールするのではなく、御者と馬の関係のように、ゆるやかに方向を定めていくという意味あいをこめて ハーネシング(無理に日本語訳すると「馴化」) という。 では、何を目指してハーネシングするのか。

次回に続く