前回はB/S経営の前提部分の話を書きました。
今回は「経営者としての決算書(財務諸表)の読み方」について見ていきます。
会計学や会計実務上の厳密な話ではありませんが、経営者が要点をつかむためのものとしてご理解ください。

そもそも決算書は、税務と投資家への情報公開のために作成されるものです。
第三者が見るという前提だからこそ共通のフォーマットになっているわけです。
会社を商品と思えば、決算書は商品の仕様書、あるいはカタログになります。
経営者としては、この決算書を外部に向けての情報発信だけではなく、「強くてよい会社を作るための武器」として活用したいところです。
そのためにまず、決算書のどの部分に意識を向けるのが「よい仕様書」につながるのかを知る必要があります。
そこで、まずは日常の活動をイメージしやすいP/L(損益計算書)から見ていきましょう。

1. P/LはDoing

P/LはDoing、つまり企業の日常の活動を表現するものです。
P/Lは、入る金(=収益)から出る金(=費用、税金)を段階を追って足し引きして五種類の利益を表現する構造になっています。

画像1

表のグリーンの部分が入る金(=収益)、オレンジの部分が出る金(=費用、税金)、ピンクの部分が五種類の利益を表します。

利益を上げるには、入る金を増やすか、出る金を減らすしかありません。
当たり前すぎるとお叱りを受けそうですが、入る金と出る金のそれぞれの意味と誰が責任を負うべきものかを理解していると、この当たり前のことが経営全体に大きな意味を持つことがわかります。

2. 入る金(=収益)

入る金(=収益)は三種類あります。

1 売上:顧客に商品・サービスを提供した対価として入る金
売上は現場の社員の努力によって上げられています(中小零細企業では経営者も売上に貢献しますが)。
そしてこれは、客数×客単価という単純なかけ算で表すことができます。
売上を大きくするには客数を増やすか客単価を上げるかのどちらかを選ぶことになります。
客数と客単価を交互に上げていければ理想的です。

2 営業外収益:投資のインカム
会社が持っている資産(金や物)を本業以外のことに投資することで継続的に得られる収益です。
使わない土地を駐車場にして利益を上げる、といった例がわかりやすいでしょう。
株式の配当や預金の利息などもこれにあたります。
本業以外のことに投資しているわけですから、これは経営者の判断によるものですので、すべてが経営者の責任ということになります。

3 特別利益:投資のキャピタルゲイン
利益と名前がついていますが、入る金として考えます。
土地や株式といった会社の資産の売却によって得られる一時的な利益です。
これも経営者の判断によるものですが、一時的なものですので、適切なタイミングでの売却であることが重要です。
また、これは固定資産を現金等の流動資産に変える働きがありますので、資金の流動性やキャッシュフローを大きくしたいという経営判断によるものになります。

こうして三つの入る金(=収益)を見ると、売上だけが社員の責任で、それ以外は経営者の責任であり、投資判断であることがわかります。

経営者は投資感覚を持つ必要があるということです。

3. 出る金(=費用)(税金は除きます)

出る金(=費用)は四種類あります

1 売上原価:儲かりやすさ
売上原価とは、売れた商品やサービスの仕入れや製造にかかった費用です。
売上原価が大きいということは、利益が上がりにくい商品/サービスの構成やしくみであることを意味します。
それぞれの商品/サービスの原価を下げる努力は現場の社員の仕事ですが、利益が上がりやすい商品/サービスの構成を考えるのは経営者の責任です。
また原価が低い場合には参入障壁が低くライバルが増えますので、その中で差別化しブランド力を高める方策が必要になります。
そこには全社一丸となった取り組みが必要になります。

2 販売費・一般管理費:マネジメントの巧拙
販売費・一般管理費とは一言で言えば会社の運営にかかる費用です。
管理会計でいう固定費と思っ他方が理解しやすいかもしれません。
代表的なものとしては、①人件費②地代・家賃③水道光熱費④広告宣伝費などが挙げられます。
これらの費用は減らせばよいというものではなく、どれだけ利益に貢献しているかという見方をしなければいけません。
いわゆる固定費生産性ですが、現実的には

その費用を売値に反映したときに顧客が納得するか

という視点で判断すると、比較的容易に使ってよいものかどうかを切り分けられます。
ティファニーの店舗の高い家賃が売値に反映されていても顧客は納得しますが、立ち食いそばだとそうはいかないでしょう。
これらの費用を使うかどうかは経営者の判断になり、効率的に使うのは管理者の責任になります。

3 営業外費用:資金調達能力
主に金利と考えてよいでしょう。
言い換えれば資金調達にかかる費用です。
これは、その会社の信用力を反映しています。
会社の信用力が高ければ、銀行の金利も下がりますし、社債による直接金融も可能になります。
そして、その信用力の源泉がB/Sなのですが、これは次回以降の話題にします。

4 特別損失:戦略的費用
特別損失は資産の売却損や役員の退職金などが含まれます。
これらは費用として払うタイミングをある程度選ぶことができます。
適切なタイミングで資産、時には事業を売却することで、経営の効率をよくしたり、税金の支払いを抑えてキャッシュフローを改善する効果を持ちます。
これは経営者が戦略的に使う費用として捉えておくのがよいでしょう。

ここまで、経営者にとってのP/L(損益計算書)の意味づけを考えてきましたが、結局

P/Lは経営者が何をやっているのか、すなわちDoing

を示していることがわかります。

これに対して

B/Sは経営者がどんな会社であろうとしているか、すなわちBeing

を示します。
これについてはまた次回に。