多くの事業は、その種になるような技術であったり提供能力であったりといった事業シーズから組み立てます。
これは自然な思考の流れです。
しかし、組立始めたら早々に、顧客起点に組み直します。
なぜなら、すべての事業は

顧客に価値を提供して始めて対価が得られるから

です。
では、顧客を起点にして事業を組み立てるとはどういうことでしょうか。
それは

顧客のニーズと制約条件と自社の能力をすりあわせる

ということです。

1. 自社の能力と顧客がフィットするか

顧客には、何がしか満たしたい欲求があります。
例えば、空腹を満たしたい、美しくありたい、女性にもてたい・・等々、その源は生存欲求であったり、承認欲求であったり様々です。
顧客の欲求を満たすことで我々は対価を得ることができるわけですが、同時に満たさなければならないものが

顧客の制約条件

です。
顧客の制約条件とは、ニーズを満たす際に守りたい条件のことです。

企業は顧客のニーズを満たすための具体的な商品を提案しますが、それは顧客ニーズと自社の提供能力、そしてこの制約条件が重なる部分になります。
例えば、国内での移動手段を考えてみましょう。
根本的なニーズとしては、「移動したい」ということです。
使えるお金が少なく時間が多い人は高速バスやLCCといった、時間や手間がかかるが安価な商品を選びます。
使えるお金が多い人は、自分自身のニーズに別のニーズを付加することができます。
例えば「快適に」とか、「かっこよく」とか、より実現が難しいニーズを生み出します。
その結果、ファーストクラスやグリーン席、さらに進めばビジネスジェットという選択も視野に入るようになります。


自社が提供する商品、その提供能力が、顧客の制約条件に合っているということは

勝てる市場

にいるということです。

2. 顧客の制約条件

顧客の制約条件は、

①予算
②品質

の組み合わせから大きく三つのパターンに分類できます。

ひとつめは、低コストです。
顧客の制約条件で、払える金額というのが最大のものと言ってよいでしょう。
もう少し突っ込んで言えば、

そのニーズを満たすために払える金額

です。
予算に余裕があれば高価なものを選ぶ可能性もありますが、必要以上の出費をしたい人はいません。
何に対してどれだけお金を使うかは、顧客次第です。
特にBtoBのビジネスであれば効率化、つまりいかにトータルコストを下げるかが最重視されます。
コストに対する制約条件が厳しい市場です。
一方で、BtoCのビジネスでは、コストに対する制約条件がその人ごとにずいぶん変わります。
自社が提供する商品について、コストに対する制約条件がどの程度厳しいのか、それが自社の提供能力とどうマッチするのかを考えることが大事です。

ふたつめが、品質です。
とにかくよいものがほしい、自分にとって価値の高いものがほしい、そのためには金に糸目はつけないという場合です。
ここで、意識したいことは

品質の高低は顧客が決める

ということです。
顧客の価値基準に従って高い品質を提供することが求められます。
商品を作る側から見た高品質が顧客に否定されることもあれば、その逆もあるでしょう。
例えば、最新型のiPhoneを購入したら、とりあえずスタバで使いたくなるといった場合もあります。
そういった顧客が思っている価値を、われわれは否定すべきではないでしょう。

「顧客にとって」という条件の元での高品質を考えるためには、顧客が誰かを定義できている必要があります。
そうでないと、追求すべき品質を定義できません。
まず顧客を決め、その顧客にとって高い品質を定義します。

起業支援の現場で、対象とする顧客を尋ねたときに

自分の商品の価値をわかってくれる人

という答えが返ってくることがよくあります。

それはどんな人か

と問いかけると答えが出なくなります。
完全に思考停止して、自分勝手に品質を向上させようとするタイプです。
たまたま売れることもあるでしょうが、うまくいかないことが多いようです。
あくまで、「顧客にとっての」高品質・高性能を追求するというのがポイントです

三つ目は、自分専用・個別でなければならない商品が必要な場合です。
例えば、体が不自由な顧客向けの旅行プログラムなどはその典型でしょう。
教育なども本来個別対応が必要です。
これは、顧客をとことん絞り込んだ上での高品質と考えることもできます。

3. 顧客を満足させる手段

顧客の制約条件を踏まえると、顧客を満足させる基本戦略、すなわち顧客戦略は三つに絞られます。
第一は、

はやい!やすい!戦略(優れた業務プロセス)

です。
マニュアル化、標準化などを通して業務プロセスを最適化し、安定した品質の商品を低価格で提供します。
ファストフード店などは最もわかりやすい例です

第二が

うまい!戦略(製品リーダー)

です。
希少性、新規性、最高性能といった。一定数の顧客が共通して求める品質を高めることで、顧客の制約条件に合わせます。
珍しいモノ、新しいモノ、おしゃれなモノ、自慢できるモノ、インスタ映えするモノ等々、常に、品質を決めるのは顧客。
顧客が不要だと考える項目は品質にカウントされません。
品質にカウントされる項目を増やしていくという努力も必要になるでしょう。

第三が

あなただけ!戦略(完全な顧客ソリューション)

です。
顧客の個別の要求に全て応えるものです。
一般的に対価も大きいものになりますがコストも大きくなります。
特殊な要望に対して比較的低コストで応えられるような専門性が収益源になります。
製造業では「すりあわせ」の能力がこれにあたります。

顧客を満足させる基本戦略はこの三つだけです。
このうち二つを両立、三つを鼎立させることができれば、大きな競争優位になります。
それは一言で言えば、

顧客にとっての品質をローコストで実現する

ということになります。
たとえば、AIを活用したAmazonのレコメンド(おすすめ)のしくみは、はやい!やすい!とあなただけ!を両立しています
IT技術の使いどころはここにあるのではないでしょうか。

次回は、こうやって定めた顧客との関係を深めていくプロセスについて見ていきましょう。