経営者にとって

会社は価値を高めるべき商品

と考えることができます。
では、会社の商品価値とはなんでしょうか。
それは誰を顧客と考えるかによって三通りに分類できます。
会社の商品を購入する顧客に対しては、質の高い商品を適切な価格で提供できること。
従業員にとっては、十分な報酬と成長機会を提供すること。
そして、投資家にとっては資金に対する十分な利回りがあることこそが価値になります。

これらは当然連動していますが、特に高い利回りの実現を正当な手段で目指すと、残りの二つについても必然的に強化せざるを得なくなります。
そこで、今回は会社の利回りについて、少し考えてみましょう

1. 会社の利回を示すROA

会社の利回りは、投入した資金に対してどれだけの利益を生み出したかで示します。
その指標としてはROA(Return On Assets 総資産利益率)とROE(Return On Equity 自己資本利益率)の二つが用いられます
ROEは、負債を除く純資産(自己資本)にたいする利益の割合、すなわち利回りを表し、その際の利益は税引き後の当期純利益を用います。
これは、当期純利益が株主に対する配当の原資であることを思えば、ROEは負債が株主視点の利回りの指標であることがわかります。
一方ROAは、負債も含めた総資産にたいする利益の割合、すなわち

他人の資金、株主の資金、自社で積み上げた資金のすべてを投入してどれだけの利益を生み出したか

言い換えれば、会社全体の利回りであり、会社経営の視点で見た利回りだと言えます。
あるいは経営の成績と言うべきかもしれません。
そのため、計算には経常利益または営業利益を用います。
経営の中に投資をも含めるとすれば、経常利益を用いる方が実態を表現できるでしょう。

ROAは重要な指標ですが、業種業態で目指す数値は変わります。
固定資産の多い製造業等はどうしてもROAは上がりにくくなり、高くても10%そこそこという場合が多いようです。
一方でサービス業では総資産が膨らまないためROAは高くなる傾向にあり、20%程度になることもあります。
もちろんさらに大きな値になることもあります。

2. ROAを高めるには

ROAを高めるためには、

①分子の経常利益を大きくする
②分母の総資産を小さくする

の二つの道筋が考えられます。
分子を大きくするということは、利益率の高いビジネスを追求して営業利益を高め、営業外損益を高めるという方向性です。
これば、いわば「儲ける技術」であり、結果はP/Lに反映されます。
一方、分母を小さくするということは、資産を圧縮するという発想になります。
これは会社のカタチをどうするかという問題です。
多くの固定資産を武器として利益を得ようとするのか、その武器をあえて手放して利益を得る道を求めるのか、そこには経営者の経営思想が現れます。
この点については最後にもう一度ふりかえりましょう。

どういう方向で考えるにしても、抑えておく必要があるのは

ROA>すべての資金の平均調達コスト(期待利回り、利率)

でなければならないという点です。
ROAが国債(ほぼノーリスク投資の例)の利回りよりも低かったら、経営をしていて悲しいものがありますね。

3. 財務力指数

先に書いたとおり収益力を表すROAは業種によって大きく異なります。
固定資産が利益の源泉となるような事業では必然的にROAは低くなります。
ROAの低い事業(=収益性の低い事業)では、その分安定性を確保しておく必要があります。
その安定性の目安が前回扱った利益剰余金と資本金を合わせた純資産(自己資本)です。
総資産に対する純資産(自己資本)の割合を自己資本比率と呼びますが、これが財務の安定性を示す指標となります。
そこで収益性と安定性をかけあわせて財務力を表す指標を考えます、すなわち

財務力指数=ROA(収益性)×自己資本比率(安定性)

という計算式です。
もしROAが5%で、自己資本比率が20%なら、財務力指数は5×20=100となります。
これは、製造業等でROAが小さくなりがちな業種では自己資本比率を高めることが、逆にROAが高い場合には、少し自己資本比率を下げてでも(借入をしてでも)ビジネスを回すことが望ましいという意味合いを持つ指標です。

なお、私がこの式を教わった大阪の東天満総合会計事務所の黒崎先生によると

財務力指数 > 100 なら優良企業
財務力指数 > 300 なら超優良企業

と分類できるとのことです。

4. 見えざる資産の強化

資産を圧縮するかどうかは経営思想の問題だと先に書きましたが、基本的には圧縮する方向を目指す方が望ましいです。
なぜなら、

固定資産を圧縮するということは、固定資産以外の経営資源が利益を生み出すこと

に他ならないからです。
固定資産以外の経営資源としては

ヒト、カネ、知(知識、知恵)

があります。
資本力の小さな中小企業では、特にヒトと知(知識、知恵)によって利益を生み出すことに力を注ぐことが競争優位につながります。

人・組織・知恵、それらを強化する能力(ダイナミックケイパビリティ)は、帳簿上に現れない資産ですので「見えざる資産」と呼ばれます。
そして、それは他社が買い取ることができない資産でもあります。
見かけ上、流動資産が大きく、固定資産が小さく、帳簿に載らない資産がたくさんある会社は、次々と新たな利益を生み出す能力、すなわち連続的競争優位を築く力を持ちます。

会社の利回りを追求することは、社内に「見えざる資産」を育て、連続的競争優位の実現に近づく王道といってもよいのだと思います。