創業したての頃、うちの会社には「会長」がいました。
典型的な昭和の創業者で、ある意味傍若無人なのだけど、何事にも素直でなんとも憎めない「親父」だったんです。
この人はバブルの時に不動産投資にガンガンのめり込み、バブル崩壊で230億の負債を抱えました。
そこで自己破産でもしていればそれまでの人だったのですが、そこから経営を立て直しただけでなく、そのプロセスを事業の種にして企業再生の会社を育て、さらに投資会社に発展させました。
その会長が見いだした経営手法を「B/S経営」といいました。
それは、変化の激しい時代に「強くてよい会社」を作るための手法でした。
この「B/S経営」を学ぶ塾の運営がうちの会社の最初の仕事だったのです。
当時、さすがにコロナ禍までは想定しませんでしたが、実際に「強くてよい会社」づくりに取り組んだ経営者の方は数多くおられ、コロナの影響の中でも「強くてよい会社」を維持しています。
会長は二年前に鬼籍に入っていますので、同じ塾はできませんが、そこで伝えていたエッセンスだけでも今伝えておきたくてまとめることにしました。
ただし、経営学的に厳密な話ではありませんのであらかじめご了承ください

1. 前提として

「B/S経営」は何を目指しているか。
それは、一言で言うと「強くてよい会社」です。
強い会社とは、環境変化に負けない会社。それは、大きな変化を耐えしのぐ財務の力と、逆手にとる事業創造の力を持っているということ。
よい会社とは、社員が仕事を楽しみ、成長できる会社。
それが会社の継続性につながります。
と、まあ、とても理想的な会社の姿ですが、もちろんそれを実現するにはいくつかのハードルがあります。
何回かに分けてご紹介します。

2. 経営という仕事

仕事の本質は「商品・サービスの提供を通して顧客の欲求を満たす付加価値を生み出すこと」です。
レストランを例にしましょう。
シェフにとって商品は言うまでもなく料理です。料理を通して「おいしいものを食べたい」というお客様の欲求を満たしています。
ホールスタッフにとっての、お客様の対応というサービスを通して、「心地よく食事がしたい」という欲求を満たします。

では、経営者の仕事とはどういうものでしょうか。
経営者にとっての商品と付加価値はなんでしょうか。
経営者の仕事は

付加価値を生み出す場、すなわち会社の提供を通して、顧客の欲求を満たす付加価値を生み出すこと

となります。

経営者にとっての顧客は大きく三種類あります。
一つ目は言うまでもなく、自社の商品・サービスを購入してくれる顧客。
彼らに対して常に高い付加価値を提供できる環境を作る必要があります。
そのために必要な設備投資や人材教育、資金調達、商品開発等々様々な仕事をします。
二つ目の顧客は内部顧客、すなわち従業員です。
従業員の生活が成り立ち続けるようにすると同時に、彼らが能力を高められるような支援も大事な仕事です。
これらの顧客に加えて、もう一つの顧客を考えることで経営に対する意識が大きく変わります。

3. 売れる会社を作れ

三つ目の顧客については、会社を買ってくれる人です
本当に売買する必要はなく、仮想的な顧客として捉えれば大丈夫です。
もし、自社を買おうとしている人がいるとしたら、商品は会社そのものです。

もしあなたが会社を商品だとしたならば、どんな付加価値をつけますか。
買う側が求める価値はいくつかあるかも知れませんが、一番はなんと言っても収益性でしょう。
別の言い方をすれば、投資の利回りです。

例えば、投資用のマンションなら、1,000万円の投資に対して年間家賃収入(から経費を引いたもの)が60万円あったとすれば、利回り6%という風に計算します。
では、会社の利回りはどう計算すればよいでしょうか。
難しい計算をおいて概念的に言えば、会社に投入した金額、すなわち総資産に対して、年間どれだけの利益が出るか、ということになるでしょう。
これがROA(総資産利益率)です。

ROAが大きな会社は利回りがよい会社であり、それは、選りすぐれた経営をしていることを示します。

「それって結局株式の話じゃないか」と感じられるかもしれません。
共通する部分は多々ありますが、ここまでの話は、株式を売る売らないにかかわらず自社の価値を高める考え方として捉えていただければと思います。

 ROA=利益/総資産
ですので、売れる会社を意識する、すなわちROAを高めようとするなら

1 分子の利益を大きくする
2 分母の総資産を小さくする

という二つの方向性が考えられます。

ここが「B/S経営」のスタート地点です。