2017年から4年間にわたって続けられた岡山県西粟倉村役場の地方創生推進班の取り組みについて、さる4月21日に村長以下幹部職員のみなさんと「事例共有会」を開催しました。
そこで、地方創生推進班のみなさんの活動にどのような意味があるのかを、①個人の成長の視点、②組織の変革の視点からふりかえりました。
プロデューサー型公務員養成講座とも言われる研修会「テーマワーキング」や、日々の活動のサポートにどのようなことが仕込まれていたかについてかなりがっつりひもときました。
他地域でもうまく活用していただければと思い、差し障りのない範囲で共有します。

0. 前提の話

個人を、大きく三つの要素を持つ存在として扱っています。
一つ目が、行動のルールとしての戦略。
二つ目が相互作用のパターン、人との関わり方。
この関わり方が重要で、関わり方次第で、よいアイデアが出ることもあれば、全然ダメな時もあります。
三つ目がタグ、どういうものの考え方を持っているかといった主義、嗜好、個性などです。

これらの要素を持つものを個人(システム論的にはエージェントと呼びます)とします。
個人は自分の主義、嗜好、個性を持ちながら、行動ルールも自分で決めめたり変更することもできます。
また、それぞれ固有の他者との関わり方も持っていて、これも変更することができます。

この個人と他の個人との間、または個人と環境との間に、情報のやりとりが生じます。
これを相互作用とよびますが、相互作用を通じて個人は他者や環境と互いに影響を及ぼし合います。
自分が影響力を持っている場と持っている場と、持っていない場で、居心地のよさはまるで違います。
自分が影響力を持っていない場では居心地が悪く、逆に影響力が強い場では必要以上に影響力を周囲に及ぼそうとすることもあります。
いずれにせよ、複数の個人が集まると、必ずお互いの相互作用が生まれます。
その中で大事なことは、その相互作用が学習の源泉になることです。
組織であれ、ただの集団であれ、相手の力を借りて自分の考えを変化させていくことができます(望ましい方向の変化とは限りません)。

さて、複数の個人がいて相互作用が生じるときに注目したいのが多様性です。
この場合の多様性は、男性か女性か、年代がどうか、あるいは人種がどうかといった属性の多様性という意味ではありません。
各個人の行動ルールの多様性、あるいは持っている情報の多様性を指します。
特に、情報の多様性は、その組織の変化対応力を大きく決めます。
平たく言えば、

ネタがたくさんある組織は、世の中がどんなに変わっても次の生き抜く新しいネタを生み出せますが、ネタがそれほどない組織では、そういうものが生まれてこない

という話です。

どうすれば新しいネタ、それもちゃんと生き残れるようなネタを生み出せるかが重要な論点になります。
そういう目で見たときに西粟倉村役場になにが起こったのかをひもといていきましょう。

1. 地方法制推進班の活動 1stステージ

私にとって、ことのはじめは2017年5月のことでした。
西粟倉ローカルライフラボというという取り組みでの中で、研究テーマの候補を出したいというお話でした。
ローカルライフラボとは、地域おこし協力隊として村に移住した人(研究生)が村が望ましい将来像、「100年の森構想」の先に行くために必要だと思われることの調査や、解決するためのプロジェクトをプロトタイプという形で実行するというもので、村の側からある程度のテーマを示して、それに興味のある人を全国から募集するという流れでした。
そこで、

研究テーマの作り方や、そこからプロジェクトをどう作り込んでいくかの手法を学び、長期的には、役場のみなさんが自分たちで事業案を出して予算確保に至るような、プロデューサー型行政職員になれたらよいな

という相談をいただいたのが、最初の話です。
テーマを作るワークショップということで、「テーマワーキング」という名前になりました。
研究テーマを考えるワークショップだと思って参加したら、実は自分がプロデューサー型の行政職員になることを期待されたトレーニングだった・・という、なかなかハードなプログラムの始まりでした。

第1回テーマワーキングは2017年6月8日。
その時のテーマは「機能拡張」でした。
役場職員としての自分の機能をどれだけ広げるかを考えようということを切り口にして研究生のためのテーマの作り方を紹介しました。
その月のうちに18の研究テーマが提案されました。
普通ならここでいったん終了するところでしたが、むしろこの先が本番でした

その頃並行して、村のグランドデザインを考える「グランドデザインワーク」が進められていました。
ここでは、村として目指す姿を示す旗を一本掲げようという話が進められました。
この旗は最終的に「生きるを楽しむ」という言葉に集約されましたが、どの角度から見るかによって異なる意味合いを持ちます。
「生きるを楽しむ」(この言葉にまだ集約されてはいなかったのですが、大まかな方向性は共有されていました)を福祉の視点から見たらどういうことが考えられるか、教育の視点から見たらどうなのか、産業振興の視点から見たらどうなのか。
それぞれ参加者が自分の視点で見たときに、何ができるかを考えていきました。
所属部署の仕事に近い話をする人も、まったく違う話をする方もいました。
一行政職員であると同時に一住民でもあるという人も多く、ひとりの中にも複数の視点上がります。
そこで、なるべく個人的な視点で旗を見ると何が見えてくるか、どんな未来にしたいか、そのために何をしなければいけないかを考えて、この村の中に実装しましょうという話で進めました。

その後のテーマワーキングでは、実際にプロジェクトを作り、素案を作り、お互いに語って、お互いに応援しあう関係を作りました。
お互いに貶す関係を作っても仕方がないので、応援ないしはおせっかいしましょうという言い方をしていました。
次年度に、実際にプランが動いた場合のスケジュールまで検討し、「自分がやるんだっけ」という疑問を表に出すいとまもなく、なし崩しに自分で実行する羽目になっていったのがこの頃です。
そこでも多くの魅力的なプロジェクトが生まれました。
センセーショナルだったのが、「頑固男(ガンナム)」という、農林用ロボットを作りたいというプロジェクトでした。
いちばん突飛なだけに、そこに至る道筋に様々な派生が考えられます。
やりようによっては相当おもしろいものになると個人的に目をつけていたのがこのプロジェクトでした。

グランドデザイン案もふまえて、11人のメンバーから11プロジェクトが提案されました。
それらの中で、特に力を入れて重点的に回すプロジェクトを「シンボルプロジェクト」として絞り込みました。

2. 個人の成長の視点からふりかえる①

地方創生推進班のメンバーには大きく二つの期待をかけてプログラムを進めました。
一つ目は、アウトプットの多様度を高められる行政職員になってほしいということです。
アウトプットが多様であるということは、自分に情報だけでなく他の人の情報もうまく取り入れてより質の高いアウトプットができるということです。
自分の目の前の仕事は深めていくと同時に、他の人の仕事を理解して情報を引き出せる状態です。
誰がどんな情報を持っているか理解していれば、それを組み合わせて、新しいものが出せますし、自分で出したアイデアについても、他の人の考え、別のアイデアが出てくるかもしれなません。

代替案がたくさん出てくるというのは組織としても強い状態です。
何かひとつのことがうまくいかなくても、代替案が次々出せる組織と、他にはないからあきらめようという組織では、前者の方が圧倒的にパフォーマンスは高くなります。
その根幹にあるのは、代替案をたくさん持てるような人たちがいる状態、つまりいろいろな情報を、いろいろな人が持っていて、それを交換できる状態です。
そこでは、情報の多様性がとても重要です。

世の中の変化よりも、自分たちが持っている対応策や代替案の方が多いときは、まわりの変化の影響を受けるよりも、こちらが主になって周囲を制御することができます。
自分たちの対応策が少ないときは、周囲の変化に対してお手上げのまま流されていくしかありません。
できれば、多様な代替案が持てる状態を作りたいところです。
対応策や代替案は、他の案との組み合わせを変えることで、どんどん多様性が増していきます。

持っている情報のが多い人同士が組み合わせあって、さら多様な情報を生み出す。

そんなことができる行政スタッフになるための場の設計とかじ取りをしました。

個人のネタも必要、他人のネタと一緒に組み合わせることも必要です。ということができる行政スタッフであってほしい、ということを仕込みました。

期待の二つ目は、自己言及型コミュニケーションです。
自分の考えをいったん外に出してみる(外化)と、それを聞いた人はその人なり価値観や考え方の枠組みを通して何らかの反応を返します。
自分が出した意見や考えに対して返ってきた反応を取り込んで、もう一度自分で意見を修正する(内化)というのが自己言及型コミュニケーションです。
意見の「壁打ち」とでもいうべきものですが、これをを通して考えがどんどん改善されていきます。
この改善を、自分だけで進めずに他者に頼ることで、他者への信頼が醸成されます。

お互いに「壁打ち」ができる関係性は、お互いの信頼を高められる関係性という言い方もできます。今回は、推進班中だけの話でしたが、推進班の外に出たら、役場内全部で信頼関係を作る話になります。
さらにもう一歩外に外に出たら、地域との信頼関係を作ることになります。
誰とでも簡単にできるものではありませんが、可能な限りこういう関係を作れるようにと、ワークの多くの時間は「壁打ち」に費やしました。
実際には「壁打ち」と言わずに、壁側の人がもっと積極的に情報を返せるように、「おせっかい」という」言葉を使いました。
「おせっかい」を通して、「この人は自分よりもたくさん知識経験がある。だったらこの人の意見は取り入れるべきだ」とか「この人との関係性には悪意はないから、とりあえず話を聞いてみよう」といった信頼関係が強化されると、自分で処理できる範囲を上回った情報処理ができるようになります。
そして、より多様な情報を効率的に生み出せるようになるのです。
平たく言えば、

人の力を借りた方が結果がいいと腹落ちできている状態

が、信頼が醸成された状態ということです。

1年目の取り組みをふりかえると、他者に対する信頼感は強くなり、自分の意見を、他者を通してより質のよいものに高めていくことができるようになっていきました。
議論において自分の意見を通すということは意味を失い、村の未来のためという目的が明確に共有されていきました。

3. 地方法制推進班の活動 2ndステージ

2018年度テーマワーキングは「決めて、やる」をテーマとして進めました。
実践することで結果を出し、改善と修正を繰り返す1年としました。

組織や地域はどうやって進化していくか、どのような介入をすればそれが促進されるかといったことを、知識として、あるいは実践を通して身につけていってもらいました。
その中で、特に注力したのが「試作」でした。
参加者の多くは試作よりは調査の方が得意なようでしたが、そこを無理矢理動かして、とにかく試作して関係者の反応を見ようということを繰り返しました。

4. 個人の成長の視点からふりかえる②

2年目はメンバーへの期待もさらに高くなりました。
プロデューサー型行政職員の前の段階として、いろいろな人の力を集めて協働を促進する、コーディネーター的な力が必要と考えていました。
中間支援の理論でコーディネーターに必要な能力としてあげられているのは①変革促進、②プロセス支援、③資源連結、④問題解決提示の四つです。
多くの人がコーディネート機能で思うのは資源連結でしょう。
しかし、素直に考えてみると、やったことのない人に「誰かをつなぎます」と言われても信用できないでしょう。
その人の能力を評価できるのか、マッチしたときにうまくできるかどうか評価できるのかと、つながれる側の人は思います。
そうではなく、コーディネートする人自身が責任や主体性を持っていることが重要で、他者のプロジェクトをサポートする際にも、自分自身の問題意識を持ちながら自分で状況の改善変革をやってみるくらいのことが必要です。
もっと言うと、さらに計画を始める頃から参加して、自分が責任を持つ主体になるという感覚を持てる人でないと、現実的にはコーディネートはできないです。
そうでない人が来ても、プロジェクトを進めている人たちは「あなたにコーディネートしてもらいたくない」と思ってしまいます。
協働するとは、それぞれひとりひとりが主体として立っていければなりません。
ですから、まず、ちゃんと主体として立つ、そして結果を出そうということをお伝えしました。

もう一つ期待したのが、全体秩序を更新できるようになることでした。
プロジェクトを進めていくと、でうまくいくこともあれば、うまくいかないこともあります。
そこで、メンバー同士がお互いをサポートしあいますが、その中で「やり方が違うんじゃないか」、「そもそも考えが違うんじゃないか」といったことを考えて、自分たちの行動ルール自体をみんなでアップデートしてしまうというようなことが起こってきます。
これは推進班のメンバー内でもそうですが、これから広げていくと、役場のいろいろな部署で起こるかもしれませんし、地域の中で「考え方ややり方を変えないといけないのでは」という話になるかもしれません。
お互いのやり取り、相互作用を通して、みんなの行動ルール、特に組織の中での行動ルールが変わっていくプロセスを目指したいと考えました。
ここで推進班のみなさんに望んだのは、自分たちで活動の形や関係性を更新できることでした。

組織の枠組みは変えなくてよくて、枠をうまく使って、自分たちが活動する。それも、お互いの力を借りあえるような活動の仕方になるように、その中の秩序を更新できるようにになってほしいと考えました。
地域の人との間の関係性も同様です
年配の人もいれば、若い人もいて、元からの住民もいれば、外から移住してきた人もいる、多様な住民が暮らす村で、「こんなふうに活動したらいい」というルールを自分たちで一緒に作れるように、「こういう決まりだからこうしてはいけません」などと言わない人になってほしいという期待がありました。
その時に大事にしたのが、1年目から伝えている多様性と協働でした。
お互いに情報を交換して組み合わせること、言い換えれば、他者の頭を使い、自分をもっと賢くすることです。
2年目はそれに加えて淘汰の考え方を導入しました。
淘汰といっても、よくないもの(考え方、ルール、行事、事業等々)をわざわざ排除するという考え方ではなく、逆によいものを伸ばすことで、特によくないものが自然に弱ってくるという考え方体系的に学んでいただきました。
みんなでよいものを選ぶんだという組織の中の圧力を淘汰圧と言います。
淘汰圧が強すぎると、その時点で「最適な」ものだけが生き残り、その後大きな環境変化があると耐えられなくなる場合があります。
村のビジョンに基づく「ほどほど」の淘汰圧をかけることで、もしかしたら消えていくものがあるかもしれませんが、常に環境変化に「ある程度適応した」ものが残るということを頭と肌感でわかることを目指したやりとりを進めました。

これは組織の成長のに関わってくる話でもあります。
組織というと、普通は、○○課という部署の枠組みをイメージしますが、組織には一つは枠組み、もう一つはその中でどんな活動と関係性を作っているかという二つの側面があります。
働いている人間にとって、地域の人にとって、枠組みもさることながら、その中でどんな活動や関係性が作られているかの方が重要度が高いものです。
例えば、会社でどんどん人が辞めるような場合、その活動、あるいは関係性がうまくいっていないと辞めたくなったりします。
全体秩序の更新というのは、この活動や関係性を整えていく、場合によっては大きく変革するということです。

3年目と言うことで、メンバーへの期待もさらに高いものになりました。
それが、「適切な介入」です。
他者のプロジェクトに対して、「こうやったらもっと面白いかも」、「○○さんと一緒にやったら違うアプローチができるかも」、「こうすればもっとうまく進むかも」等々の支援する能力はコーディネーター能力の大きな部分を占めています。
協働のプロセスの中の、プロセス支援と資源連結に相当する部分です。
これを、互いのプロジェクトに「おせっかい」をする中で自然に身につけられるようにしました。
さらに、様々な組織や地域を複雑適応系として捉えて、そこにどのような介入をするかといいうことも考えました。

複雑適応系とは、

適応しようとするエージェント(個人)や個体群を含むシステム

で、①多様性の程度、②相互作用のパターン、③淘汰の流れの具合によってシステムの挙動が 決まっていくという特徴を持っています。
複雑適応系への介入としては三つの方法があります。
一つめはエネルギーや新しい情報を注入することで考えや判断の基準を更新すること。
二つ目は新しいエージェント、つまり外の人を入れることで関係性に揺らぎを与えること。
外の人が入ることで、その地域や組織の中の関係性に揺らぎが生じ、人と人のつながり方が変わらざるを得なくなります。
そこに、環境に適応した新しい組織の形に変わる機会が生まれます。
例えば「地域おこし協力隊」の人たちを投入する場合も、組織にゆらぎをおこして再構築するという意図を持って行う必要があります。
三つ目は、相互作用をうまく調整する、変えていくという介入の仕方です。
具体的には、何をよいものとして伸ばし、何をそうでないとして力を入れなくするかの基準を決めることです。
実際、自分たちの出したプロジェクトに対して、基準を決め、もう少し力を入れなければいけないもの、みなの力を結集すべきものをシンボルプロジェクトとして淘汰を進めました。

5. 組織の成長の視点からふりかえる

この2年間は組織の成長を促進するための仕掛けもいくつか仕込みました。
組織に対しての期待はまず、自ら非平衡状態(不安定なぐらぐらした状態)を作ることができるようになることでした。
非平衡状態というのは、鍋に水を入れて、下から火をつける(エネルギーを注入する)ことで対流が起こりやがて沸騰するように、外からのエネルギーによって生じます。
外からのエネルギー、言い換えれば環境の変化はいつでもわれわれに襲ってきていますが、多くの人や組織では、基本的に抵抗しています。
自分をぐらつかせるのは、エネルギーも必要でストレスにもなるため、基本的には抵抗します。
しかし、環境の変化がもっと大きくなったときには完全にお手上げになって滅んでしまいます。
一方、外からのエネルギーが注入された時に、それをうまく使って中をもっとぐらぐらさせられるような人が組織の中に何人かいると、組織はぐらぐらしやすくなります。
そのぐらぐらしてバラけたところで組み合わせを変えたり、やめることを決めたり、入れ替えをしたりして、新しい構造に作り直していくわけです。
この自分で構造を作っていくプロセスを自己組織化とよびます。

非平衡状態からの自己組織化は一回で終わるのではなく、何回も何回も繰り返します。
外からエネルギーが注入され(世の中の変化を受け)て、自分たちがぐらぐらしている感覚はけっこう気持ち悪いものがあります。
しかし、何度も経験すると、「ある程度ぐらぐらして新しいものにいくほうが、むしろ安定する」ということがわかるようになります。
非平衡状態からの自己組織化が常に起こっている、言い換えれば

外からのエネルギーを利用して自分たちで非平衡状態からの自己組織化を進める

組織は、環境変化に対して強い、常に世の中の動きに適応した状態になります。
変わり続けているからこそ安定できる、そういう組織になってほしいと考えました。
これを推進班の中に仕込むことで、役場全体、あるいは地域との関わりも変わってくることを目指しまたのが2年目でした。

6. 地方創生推進班の活動 3rdステージ

3年目は二期生となるメンバーが加わり、一期生にみなさん(従来からのメンバー)には、シンボルプロジェクトの正式化と、二期生に対するメンタリング、サポートに取り組んでもらいました。いうプロセスを踏んでいただきました。
正式化とは、自分たちの生み出したプロジェクトを、ちゃんと総合計画、村全体の戦略の中に組み入れる取り組みです。
役場と地域が協働して仕事にする状態を目指してそのためのしくみを作り、リソースを配分して、活動を決めていきました。

ここでは、2年目に取り組んだ淘汰のプロセスをさらに進める必要があります。
そのために、淘汰のための基準を三つ定めました。
一つ目は、基本的方向性、つまり村の将来ビジョンである「生きるを楽しむ」に、どうつながっているかという点です。
二つ目は、特に、行政が取り組む、行政のリソースを投入することでより発展するものはどれかという点です。
民間に委ねた方が発展するならそうすべきですし、行政の信用力がうまく生きる場合もあります。
行政というものが作る枠組みの力が生きてくる場合もありえます。
それを見極めました。
三つ目は、資源を自分で集めらるかという点です。
資源を自分で集めてくるところまでできると、コーディネーターから、プロデューサーに立ち位置が変わります。
一期生には、このようなハードルの高いことと、並行して、二期生のサポートもしてもらいました。

その中で特に、一期生のみなさんにやっていただいたのが、村に移住して企業を目指すローカルベンチャースクール生を引き込むことです。
役場の職員が取り組む役場内のプロジェクトなのに、役場あるいは推進班という組織の境界自体を動かすことにも取り組みました。
自分たちのプロジェクトがちゃんと回るためにはどういうリソースが必要であるかを、組織という枠組みで決めるのではなく、そのプロジェクトを回すために必要なリソースという目で見たときに、例えば役場のリソースをこれだけ使いましょう、地域のリソースをこれだけ使いましょうと配分を変えられる。
今までは組織として切れていた境界面を移したり、曖昧にしたり、そういうことで適応力を高めていく。ということをやってきました。その結果、二つのプロジェクトが正式化して育っています。

□正式化1:一般社団法人Nest
あわくら未来アカデミーというプロジェクトから派生しました。15の春までに村の子どもたちの主体性、自分らしさを持った生き方、生きる力を育むことができたらいいよねと、進められました。
特に、多様な人と出会ったり、多様な感性を持ったりすることに力を入れて進んでいます。
役場の仕事というよりは、外に出して正式化しています。
□正式化2:一般社団法人西粟倉むらまるごと研究所
最新テクノロジーは地域や人を幸せにできるのかという問いで、地域の調査結果をオープンデータ化すしたり、企業、大学も含めた外部研究者と地域の資源をマッチングすることで、村のリソースを使って科学技術の社会実装のテストができることを目指しています。

7. 地方創生推進班の活動 4thステージ

4年目では二期生のプロジェクトの仮説検証と正式化へのプロセスを進めました。
自治体職員としての職務を考える意識の強くあるため、「自分起点のプロジェクトをつくる」ということに違和感を持ちながらも、仮説検証を繰り返し、他の人の知恵を使ってプロジェクトを進めていきました。

その中で生まれた「やってみん掲示板」は、あえてこの時代にアナログの掲示板を作って顔が見えるようにしようというプロジェクトです。
村の中の「人とつながってこんなことがしたい」というニーズにマッチしました。
しかも、役場の介入や新規予算投入もなしで回る、「手離れのよい」しくみでした。
講座の中では、「手離れ」という言葉を何度か使っています。
行政職員が多くの仕事を抱え込んではパンクするのは目に見えています。
「手離れ」には行政の外の人、地域の人の力を発揮できる場を作るという意味でもあるので、できるだけ手離れさせましょうとしました。

そのほかにも、「生業ではない農」としての、ちょっとした余り物の野菜を流通させることで、農業の裾野を拡げ、全体としての村の農を守りたいというプロジェクトも提案されました。
これは単体で一人分の仕事として成立しにくいため、他の事業と抱き合わせで進めています。

8. 地方創生推進班 その先へ

組織には装置としての構造があります。
メンバーや機能、役割、それらを規定する何らかの枠組みがあります。
同時に、メンバー間の相互作用が生じる空間があります。
その視点で見たとき、地方創生推進班内のメンバーは相互作用の形(お互いの影響の与え方の形)がかなり変化してきています。
それは、それぞれの部署に戻ったとき、「浮いてしまうかもしれない」というほどのものです。
このように変化した存在のことを変異体と呼びましょう。

相互作用の形が他の人と違うような変異体が組織の中に混ざると、この人の動きが広まったときに、組織の行動自体が変わることがあります。
組織の資源の分配が変わるかもしれませんし、部署の形や、切り方が変わるかもしれません。
変異体がいるおかげで、あるいは、その人たちの関わりがつながり続けているおかげで、構造としての地方創生推進班がなくなったとしても、メンバー間の相互作用が残っていれば、それが役場内外の相互作用の形と強さを変えたり、時には装置としての構造を変える可能性を持ちます。
組織の視点で言うところの、「非平衡状態からの自己組織化」を促進する因子になるわけです。
これは、組織の適応力を高める重要な因子ですので、この変異体たちをそれぞれの部署に孤立させず、彼らの関係が継続するような仕掛けを作っておく方が得策です。

仕掛けとして最初に考えられるのは、活動の範囲を少し広げることです。
変異体には、さまざまな知識情報がインプットされ、行政のプロとしての知識が増えていきます。
他部署の話もたくさん耳にし、視点も高くなり、結果として与えられている職責、職務、あるいは職権の範囲をはみ出したことを考え発言することができるようになります。
同時に、そういうことを考え始めると妙な居心地悪さも感じ、うずうずして、動きたい欲求も高まります。
居心地の悪さや動きたい欲求を抑え込むと、何かあったときの変革のチャンスが減ります。
従って、推進班に参加した人には、何かを考えてアウトプットする機会に積極的に投入するのが望ましいでしょう。

もう一つの仕掛けとしては、知恵がほしいときに積極的に声をかけるということが考えられます。
変異体となった人たちは自分の職務の枠を超えた情報、普通にその部署にいたら持っていない情報を持っていて、それらを組み合わせてアウトプットできる状態にあります。
こういう人の知恵は使わなければ損で、新しい知恵がほしいときに積極的に声をかける、すなわち「おせっかい」の機会をつくるべきです。
そのためには、組織の正式なつながりの他に、部署を超えたインフォーマルな、非公式のつながりを維持しておくのが効果的です。
元推進班としてラベルだけを貼っておくことで、何かあったときに互いに支援しあえる関係性を保っておきます。
業務上で問題が生じたり新たな知恵が必要になる際に、その関係性を活用できるようにしておくことで、変異体たちが、「お互いにうまく関わって新しいことを生み出す」という能力・特性を弱めずに目の前の仕事に取り組むことができます。
地方創生推進班のメンバーは、並行して、テーマワーキングと同様のプロセスを通して他の職員との相互作用を強化し、信頼を醸成していきます。

ここまでの話で示したように変異体となった人たちを生かしていくことで、役場全体として適応力をたかめることができます。
さらに、役場の組織の定義を緩めて、「ここまでやらなくていい」、「ここは役場の仕事」と、境界面を自由に移動させられるようにもなるでしょう。
それは役場だけでなく、地域全体の適応力を高める作用を持ちます。

変異体を活用して、環境変化に適応できる役場、村になることを期待します。