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今回は企業を取り巻く外部環境のうち、業界を問わず関わってくるマクロ環境の変化と、それらへの対応について考えてみます。

外部環境は、大きくマクロ環境とミクロ環境の二つに分類されます。
マクロ環境とは、企業にとって自社の活動によって変化させることができない環境のことで、政治(Politics)、経済(Economy)、社会(Society)、技術(Technology)といったものが含まれ、これら四つの頭文字をとってPESTとまとめられたりします。
これに対して、ミクロ環境は自社の活動によって多少なりとも変化させることができる環境で、基本的には他社との競合関係を指します。
日々の活動の中では競合他社との関係がついつい気になってしまうかもしれませんが、そればかりに意識を向けていると、大きな社会環境の変化によって競合もろとも市場自体がなくなってしまうこともままあります。

馬車屋同士でしのぎを削っているうちに、鉄道が敷かれる

ような出来事はいつどこででも起こりえます。
少なくとも経営者/幹部は、市場そのものが失われるような自体にならないようにするためにも、同時に自社が成長できる新たな市場を見いだすためにも、マクロ環境の変化には意識を向けておく必要があります。

1. PEST

先に書いたとおり、マクロ環境は

政治(Politics)、経済(Economy)、社会(Society)、技術(Technology)

の四つに分類され、その頭文字をとってPESTと表されます。

政治(Politics)には、法律・規制、税制、政策、裁判といったものが含まれます。
法律・規制の代表格は、俗に言う業法や、省令、監督機関から示されるマニュアルといったものが含まれます。
例えば派遣法の改正や、介護保険制度の見直しなどはそれぞれの業界に大きな影響を与えますし、2020年に廃止された金融庁マニュアルなどは銀行を通じてあらゆる産業の資金調達に影響を与えました。
2021年4月に施行された「同一労働同一賃金の導入」(労働者派遣法の内容)などは、多くの企業の人材戦略に大きな影響を与えるのは必至です。
これらの法律を生み出す政策にも注意を向けておくべきでしょう。

経済(Economy)には、景気動向、物価、消費動向、為替、金利、成長率といったものが含まれます。
例えば、海外と取引する場合には為替変動は直接的に収益に影響を与えます。
景気動向や物価は、ものの価格と需要の関係を変えますから、業界によって市場の拡大縮小が生じます。

社会(Society)には、人口動態・構成、ライフスタイル、流行、世論、宗教、教育といったものが含まれます。
この中で特に人口動態については、ある程度の予測が立っていますので最低限知っておく必要があります。
例えば、2020年の日本の人口ピラミッドと2060年のものを比較してみましょう。


全体としてグラフが小さくなっているのは、全人口が減少することを示しています。
また、現在人口の最も多い40代後半の女性は、そのまま上にシフトし2060年には80代後半〜90代の女性として、最も人口の多い区分を占めます。
人口の変化は、ざまざまな影響を社会に与えますが、あえて狭い範囲で見れば、これから40年間の間に、高齢女性向けのファッションビジネスはある程度拡大しそうです。
実際女性向けファッション誌もこれまでより高い年齢層を対象とするものが次々と発刊されています。
このように、「今の50代が、90代まで継続して、提供し続けられるサービス・商品は何か」などと考えるのは、頭の体操にもよいかもしれません。

ファッションに関連して、ライフスタイルの変化については、様々な雑誌を斜め読みででも目を通すのがよいでしょう。
私自身は月数百円の契約でいろんな雑誌が読み放題のサービスに契約して、隙間時間にタブレットで読むようにしています。
美容院などで見かける「婦人画報」などもBtoCのビジネスではヒントが多く得られるのではないでしょうか。

最後の技術(Technology)には、インフラ、新技術、イノベーション、特許といったものが含まれます。
特に近年ではIoTやAI、さらにはDXという言葉が普通に使われるようになり、中小企業といえどもこれらに無関心ではいられなくなっています。
例えば、高速通信規格の5Gが大きく普及したらどんなことができるでしょうか。
建設現場の重機を丸の内のオフィスで、ゲームコントローラーを使って複数台動かす、などということは十分に可能なことでしょう。
IoTの技術はすでに倉庫管理に飛躍的な進歩をもたらしていますが、これに自動運転が加われば、物流全体がこれまでと違ったものにアップデートされるでしょう。

これらPESTの項目は互いに影響を与え合うものです。
たとえば国際社会の中で自社がどの国と友好関係を作るかというのは外交政策ですが、これは物価や景気動向、為替や金利といった経済に関することに大きな影響を与える要因でもあります。
とはいえ、企業経営の場面ではこれらの関係性やメカニズムを追求するよりは、表面的ではあってそれぞれの項目について影響を考える方が現実的かもしれません。

2. 事前にわかるマクロ環境の変化

マクロ環境の中でも、社会(Society)に含まれる人口などはある程度予測がつきます。
他にも予測がつく、というか事前にわかるマクロ環境の変化があります。
それが

政策

です。
政策というと、「ニュースをよく見ておくとよくわかる」と言われそうですが、必ずしもニュースを見る必要はありません(実際は見ても政策より政局の話が主だったりしますし・・)。
ぜひチェックをしておきたいものとしては、政府発表資料です。

また、各省庁の政策に関係する文書を読むと、その基礎となる社会環境の変化を丁寧にひもといてくれています。
たとえば、経済産業省の産業構造審議会 産業技術環境分科会では、新型コロナによる社会の変化を詳しく議論しています。
あるいは、様々な業種について「○○白書」には、環境分析とそれに対する国の対の考え方も示されています。
もちろん、我々もすでに知っているような内容も含まれますが、一方で知らないこともありますし、何よりよくまとまっていて、理解しやすいものが多いです。
そしてなにより、国としての対応の方向、言い換えれば

国がなにに投資しようとしているか

がわかるわけですから、自社のポジショニングを考える上ではこの上なく有益な資料です。
加えて言うなら、これらの資料は

すべて無料!!

大事なことですのでもう一度

すべて無料!!

で各省庁のサイトで公開されていますし、白書については首相官邸のサイトにまとめられてもいます。
また、内閣官房のでは、様々な重点政策についての情報がまとめられています。
特におすすめは、「各種本部・会議等の活動情報」のページ
すべてをじっくり読む余裕は普通ありませんが、自社のビジネスに関係しそうな部分だけでも目を通しておくと、ある程度市場の変化を先取りすることも可能です。
そのほか、経済産業省や農林水産省、中小企業庁等の各種会議や概算要求資料なども読んでみると、どういった分野に国が投資をしようとしているのかがわかって面白いです。

また、生のデータが必要なときは「e-stat 政府統計の窓口」に行ってみると、処理をするのが面倒になるほど多種多彩なデータが得られます。
もちろん無料で!!

環境の変化を読み解くことは、自社の成長発展の機会を見つけると言うことです。
しかも、自分自身ですべてを分析しなくても、我が国の最高峰(といっても過言ではないでしょう)の頭脳集団が様々な分析をしてくれています。
それらをしっかり活用して、自社にとっての「小さくて独占できる市場」づくりを進めてみてはどうでしょうか。

次回は市場の中で生き抜く力の源泉である内部資源について考えてみましょう。