今回は企業内部にある競争優位の源泉、内部資源について見ていきます。
バーニーのRBV(Resource Based View 内部資源論)の話を持ち出すまでもなく、企業が競争優位を獲得できる条件は市場のポジショニングだけでは決まりません。
競争優位を生み出せるだけの自社の「競争力」、あるいはその源泉としての「強み」とポジショニングがうまくフィットしているときに競争優位は発揮されます。
では、その「競争力」とはなにか、「強み」とは何かについて少し深掘りしてみましょう。
「御社の強みはなんですか」とうかがったときに、よく「技術力」とか「営業力」とかいったお返事をいただきます。
あるいは、「ビジョンが共有されていること」というお答えをいただくこともあります
「お客様とのコミュニケーション」というお答もよくいただきます。
それぞれ、その通りなのですが、もう少し深掘りして
どのレベルの強みなのか
それは競争優位を築けるほどのものなのか
環境が変わっても強みとして働くのか
といった点を切り分ける必要があります。
目次
1. 完全競争から抜け出す自社の強み
第4回の記事で取り扱った完全競争の条件の一つに
技術や人材は企業間を自由に移動できる
というものがありました。
これは逆に捉えれば
企業間を自由に移動できない「自社特有の優れた技術や人材」があれば完全競争から離れられる
ということでもあります。
ここで言う「優れた技術や人材」は、もう少し広く、ヒト、モノ、カネ、知といった経営資源一般と捉えてよいでしょう。
自社の持つ経営資源が他社に比べて優れているかを判断する際の視点が
Value(経済価値)とRarity(希少性)
です。
Value(経済価値)とは、その資源が組織や顧客、社会全体に対して多くの価値をもたらすか、すなわち利益の源泉となり得るかという視点です。
一方のRarity(希少性)とは、その資源が、資源市場で珍しく稀少価値が高いか、言い換えれば他者が入手しにくいかという視点です。
経済価値が高く入手が難しいものを自社が持っているとき、その資源は競争優位の源泉になります。
Rarity(希少性)を高める方法としては、「かけあわせ」が最も有効です
たとえば、弁護士の先生、会計士の先生はたくさんいますが、まれに、両方できる人がいる。
そんな人は、法律と財務を操ることができて、M&Aや事業再生といった企業案件に強くなります。
立地とシェフの腕のかけあわせで競争優位を獲得するレストランもあるでしょう。
かけあわせのよいところは、
それぞれがそこそこの資源であっても掛け合わせることで大きな力になる一方で、かけあわせた要素のひとつだけを取り出してもそれだけの力は発揮できない
という点にあります。
それは自社と同じ資源を他社が手に入れるのが難しいと言うことを表しています。
2. 模倣困難
自社が持つ資源と同等のものを他社が入手できない状態を、
模倣困難
と言います。
どれほど利益が上がるビジネスでも、その利益を生み出す核にあたるものを、例えば資金力で入手できるならば、一気に自社の優位性は失われます。
あるいは、他の方法で代替できる場合も同様です。
では、どのようなものだったらまねできないのでしょうか。
それは、一言で言えば、
時間をかけて積み上がってきた、複雑に要因が絡み合ってできる組織の能力
です。
特定の人の能力であったり、特定の設備・機械といったものが収益に貢献することはありますが、それらは、その人を引き抜いたり同様の設備・機会を導入することで、模倣することができてしまいます。
しかし、例えばアップル社の洗練されたデザイン能力は、デザイナーをひとり引き抜いたところですぐに移転できるものではありません。
長期間にわたって顧客との信頼関係を積み上げて構築したブランドも移転できるものではありません。
これらは、一朝一夕にできるものではなく、構築のプロセスがその企業の置かれた文脈に依存しているため、他社がまねをしようとしても簡単にはまねできません。
この模倣困難な資源に加えて、特に中小企業で強化したいのは、これらの資源を活用する社内のしくみ、すなわち組織力です。
組織力というのは、
社内のベクトルがそろっている・・といった抽象的なものではありません
組織力は、社内の優れた人や技術、ノウハウがうまく活用される支援のしくみです。
例えば、新たな市場機会を見いだしたときにすぐに着手できる意思決定の速さや、部門を超えた意思疎通、社内での書類の回し方や、顧客との関係をフォローアップするしくみ、優れた企画をビジネスに落とし込むマネジメント能力といったものは、あまり表に出てこないものの、様々な資源の生産性を高める極めて重要な能力です。
このような、模倣困難で、自社の組織力によって強化発揮される組織の能力を
ケイパビリティ(Capability)
と呼びます。
ケイパビリティは、社内外の様々な資源を適宜組み合わせて、他社が生み出せない価値を生み出せるようにする能力であり、自社の歴史・経験を通して、周囲の人や企業との間で構築した関係性によって形成されます。
したがって、自社にとって大きな出来事があったときに、ケイパビリティが発揮・強化されていることが多くなります。
自社のケイパビリティを知るためには、自社が危機に落ちいたときに、それをどうやってを乗り越えたかの状況をふりかえるのが最も簡単な方法です。
企画、流通、生産、販売といった一連のビジネスの流れ(バリューチェーン)の各所に、小さくても他社がまねできない強みを築いておくことで、それらの組み合わせとして大きな能力が形成されます。
そして、これらの能力を他社がまねできないばかりか、代わりの方法を見いだせない状態が続くと、その企業は、長期にわたって競争優位を維持することが可能になります。
こうして築かれた長期(10年程度)にわたる競争優位性を
持続的競争優位
と呼びます。
ただし!!
この考え方には市場環境が大きく変化しないという前提があります。
現在の環境の変化を考えに入れると、代替困難なケイパビリティを構築した上で、次の競争優位を生み出す努力を常に続ける必要があります。
3. 変化対応力
優れたケイパビリティを持っていたとしても、市場の環境変化に合わなくなると、むしろそれらが足かせになってしまいます。
環境変化が激しい場合、その変化に対して適切なケイパビリティを生み出す能力が必要になります。
この能力はダイナミック・ケイパビリティと呼ばれますが、もっとシンプルに
変化対応力=環境変化に適応し、さらに次の変化を生み出すような能力
と捉えるのがよいでしょう。
変化対応力を磨くために最適な方法は、世の中が変わることを前提としてマネジメントすることです。
そのためにマネジメントをシンプルにすることが効果的です。
私などが実践しているのは
①実現すべき成果と期限を明確にする
②やってはいけないこと、絶対守るべきことを3項目程度定める
③その範囲で方法はすべて任せる
④仮説検証のためのふりかえりを支援する
という手法です。
このマネジメント手法はシンプルですが、社員や部下が、仕事を自分事化し、社内外の資源を組み合わせて新しい価値を生み出すことにつながります。
さすがにもう少し細かなノウハウもありますが、それはまた別の機会に。
その前に次回は、顧客創造について考えましょう。