前回は顧客を満足させる手段について考えました。
今回はその先の、満足した顧客との関係を深めると言うことについて考えていきます。

1. 顧客との関係性を作るプロセス

顧客との関係性構築のプロセスは大きく二段階に分かれます。
一つ目が顧客を選んで獲得するまでの段階。
二つ目が一度買ってくれた顧客に、買い続けていただいて、さらにそこから発展する段階です。

顧客の選別は実は最も重要なプロセスです
それは、自社が役立ちたい相手を決め、逆に役に立てない顧客を決めることです。
誰を顧客とするかを決めないと、その顧客に提供すべき価値も定まりません。
従って自社の商品の品質も定義できなくなります。
顧客を選ぶことで、ようやくその顧客に会った品質と価格で商品を提供することができるようになります。

顧客が定まったら次の段階は顧客の獲得です
ここでは購買までの流れを作ることが必要で、マーケティングミックス(4P)の中のプロモーション戦略が重要な位置を占めます。
ですが、ここでも顧客の選別がしっかりできているかどうかが、プロモーションの成否に大きく影響します。
価格を重視する顧客と品質を重視する顧客では、販売促進の方法一つをとっても大きく変わります。

一度購入してもらった顧客に対しては、その顧客との関係の維持が重要になります。
いわゆるリピーターの獲得です。
そのためには顧客の期待値を超える満足を提供し、

顧客満足からファンになる流れ

を作っていきます。
このときのキーワードは

驚き

です。
驚くほどおいしい、驚くほど安い、驚くほど速い等々、顧客の期待を超えるための工夫が求められます。
それぞれ具体的な手法はいくつもありますが、

驚くほど速い

というのは時間で計れる上、生産性を高め利益にも貢献しますので最初に目指すとよいかもしれません。
特に、創業まもなく信用が十分に積み上がっていない場合は、「驚くほど速い」を身につけると信用につながりやすいでしょう。

顧客との関係が維持できるようになったら、次に目指すのが関係の発展です。
顧客がファンになっり、信頼・信用を得る段階です。
そこから派生して、顧客が抱える様々な問題解決へとビジネスを進化させていき、その過程で提供できる価値のバリエーションを増やします。

全体像を見たところで、少し個別の話に進みましょう。
まずは、顧客との関係の維持・発展のための活動です

2. 既存顧客に対するアクション

既存顧客との間で目指す関係は

より高い利益率でリピートオーダーが得られる

状態です。
より高い利益率には二つの意味があります。
一つは、

顧客が関係性の中に付加価値を見いだし、商品価格が高くても購入してくれる

という意味です。
「あなたから買うわ」と言われる営業職の方は、なにがしか別の付加価値を関係性の中で提供しています。
それは、便利さであったり優しさであったり安全性であったり、定量化しづらい場合が多いでしょう。
それを営業職個人で実現するのではなく、企業のしくみとして実現できると大きな収益につながります。

高い利益率が示すもう一つの意味は

顧客獲得コストが低い

ということです。
ビジネスでは様々なコストが発生しますが、顧客の獲得のためのコストは、金銭的にも時間的にもとても大きなものがあります。
時には価値を生み出すためのコストよりも大きくなることすらあります。
(顧客獲得コストと価値創造コストを合わせたものが固定費ですが、これはまた別の機会に・・)
既に購買経験のある顧客は、それ以上に獲得コストを必要としませんので、その分より丁寧な対応に力を入れることができます。
その結果、関係性の中で付加価値が高まり、さらに関係が強化されます。

また、顧客との関係が維持・発展する中で顧客の年齢が上がり可処分所得が大きくなることもあります。
結果として、それまでよりも高価なものを購入してもらえることもあります。

ただ、これらは一朝一夕にできることではなく、時間をかけた信用の積み重ねとして構築されるものです。
顧客満足度を高め信用を深めることを会社のしくみとして実行することをブランディングと呼びます。

3. ブランドの進化

ブランドは企業と顧客の関係性を表現するもので、企業、顧客それぞれの側で進化していくものです。

企業にとってのブランドの進化には①識別機能(出所表示)、②品質保証、③企業目的(消費者との約束)という三つの段階があります。
それは、裏を返すとそれぞれ①認知:顧客が自社の商品を知っている状態、②信頼:顧客が自社の商品の品質を信頼している状態、③愛着:顧客が自社の商品を選択し、そのこと自体を満足している状態に対応します

ブランド認知は、顧客が

自分が購入する可能性のあるものリスト

を意識の中に作り、他の選択肢を探すという手間を省く機能を持ちます。
認知されているブランドの中で上位に食い込む、すなわち、マインドシェアを獲得することがブランディングの第一段階であり、そのための手法が広報や広告です。

ブランドへの信頼は、顧客が商品を選択する際のリスクを減らす効果を持ちます。
これが繰り返されると、マインドシェアもさらに拡大し、「お気に入り」になります。
このレベルに至るとブランディングは成功したと言ってよいでしょう。

ブランド愛着は、ブランディングの最終形態です。
これは、企業活動の目的や、描くビジョンが顧客と共有され、

同じ世界を作る仲間として認識される

状態です。
商品と対価の交換という関係はありますが、仲間意識に近い感覚の方が強化されることで、そのブランドの商品を購入する行為自体が満足感につながります。
それは、そのブランドを購入することが、一つの自己表現として成立するからです。
ここに至ると、どんな商品を出しても確実に売れるようになりますし、他のブランドに「浮気」されることもなくなります。

これらの段階を経て、顧客にとっての感動が積み重なって、商品を選んだこと自体が「素晴らしい選択をした」と思えるように関係を作ることがブランディングです。
そのメリットとしては、競合との差別化、顧客の囲い込み、広告/宣伝の効率化、そして価格競争の回避といったことが挙げられますが、その先に大きな成長と長期的な利益が生まれることは想像に難くないところです。

4. 顧客獲得のためのプロモーション

一方、新たな顧客の獲得のためにはなにをすればよいでしょうか。
第一は顧客の選別でした。
特に中小企業の場合は、顧客が「私のために作ってくれた商品だ」と感じられるくらいまで絞り込むことができたら競争優位につながります。
完全協働から遠ざかった独占に近い状態になります。

その上で、顧客の獲得のための活動に取り組みます。
マーケティングミックス(Product Price Place Promotion :4P)のフレームワークを使って、なにを、いくらで、どんな販路で提供するか、そしてどのようなプロモーションをするかを考えます。
ブランディングか顧客との関係性の構築であったように、プロモーションも顧客との関係性構築のプロセスです。
売り手から見ればプロモーションですが、買い手から見たらコミュニケーションなのです。
売り手の情報発信に対して、買い手がそれを受け止めやすいことが重要です。
口コミのように直接人間同士がコミュニケーションをとる形のプロモーションもあります
一方で、媒体(メディア)を経由したプロモーションもあります。
広報、広告、販売促進と呼ばれるものです。

広報(Public Relations)は会社の商品や取組が外部のメディアで紹介されるものです。
顧客の獲得にもつながりますし、会社と商品の信用をつくります。
直接販売業績に表れなくても、信用を積み重ねることでブランドを強化することにつながります。。

広告(ADvertising)は有料の宣伝活動です。
方法は様々ですが、

顧客に届くルートとタイミング

で行うことが重要です。
たとえば、市場が拡大中で他社の参入もあるようなときには、顧客のマインドシェア獲得のために広告はガンガン打つべきです。
市場が縮んでいるときは、ある程度稼いでできた現金を広告ではなく次の事業に投資することが健全でしょう。

販売促進(Sales Promotion)は顧客の購買行動を促進するための活動です。
ツール、商品、イベント、インセンティブといったものを組み合わせて、顧客が実際に商品を購入することを後押しするものです。
その際、何に対しての購買行動を引き出すかが大事。

顧客にとっての価値が高い、すなわち利益の大きいもの

に対する購買行動を強化するように絞り込んで考えます。

プロモーションについては、顧客にどのような行動を取ってもらうためかを決めることが重要です。
その上で、広報、広告、販売促進のどれに取り組むかを考え、個別の活動を設計します。
できれば、ブランディングまで意識したプロモーションに取り組みたいところです。

次回は商品戦略について考えます。
儲かる相手、儲かる時期、儲かる部分をおさえるフレームワークを身につけましょう。