
前回は商品のライフサイクルから、どこでどんな力を入れるべきか考えました。
今回は価値を生み出す一連の流れ、バリューチェーンを分解して、どこを強化するのがよいか考えるためのフレームワークを紹介します。
目次
1. 付加価値が高いのはどの部分か
自社のバリューチェーンを大きく①企画、②生産、③販売の三つに分割してみましょう。
実際には①と②の間に調達が、②と③の間に流通がありますが、頭を整理するためにまずは大きく三分割します。
それぞれの段階で付加価値の源泉になるのは、それぞれ
①企画:顧客接点を強化することによるニーズの把握と、顧客に提供する価値を絞り込むコンセプト構築
②生産:コストと品質の管理、複雑な「すりあわせ」
③販売:顧客との関係性の強化と、それをベースとした受注力
になります。
これらのうちどこで付加価値が生じやすいか、言い換えれば利益を得やすいかは市場環境によって変わります。
あるいは、その市場を含む国の経済の発展レベルに寄るという言い方もできるでしょう。

たとえば、生産が大きな付加価値を生むのはどういう場合でしょうか
ひとつは、市場に商品ががないときです。
1950年代から70年代の日本の市場は、まさにこの状況にありました。
需要に供給が追いつかず、市場に商品が不足していて「作れば売れる」状況だったわけです。
しかし国が豊かになると、供給が需要を上回り、生産で利益が上がる要因のひとつが失われていきました。
その中で日本の製造業は品質を高め、コストを徹底的に削ることで生産における付加価値を出し続けてきました。
あるいは、ものが不足している国の市場へ進出することで、生産における付加価値を保ったりしました。
生産が付加価値を生むもうひとつの状況は、
高度なすりあわせ
を必要としている場合、生産のプロセスで微妙なチューニングが必要なときです。
製品全体の性能を高める際に。個別の部品の性能だけではなく、それらの組み合わせによって互いにどんな影響を及ぼし合うかが読み切れないものを細かくチューニングしていくような作業を必要とする状況です。
自動車などはその典型であったと言えるでしょう(今後は変わってくるかもしれません)。
日本の製造業はこの点でも優れた能力を発揮し、「ものづくり大国」としての地位を固めました。
品質とコストの管理がかなりの高いレベルで実現されると、生産で付加価値を生み出そうとするなら、高度なすりあわせによって価値を生み出すことが条件になります。
しかし、市場が「高度なすりあわせによる最高性能」よりも「安定したパーツの組み合わせでそこそこの品質のもの」を要求するようになると、生産で付加価値を生むこと自体が困難になっていきます。
2. 成熟市場でどのように付加価値を上げるか
現在の日本市場のように需要を供給が上回っているような状況では、生産よりも企画や販売で生み出される付加価値が大きくなります。
商品が市場に溢れることで商品の差別化、顧客との関係性強化、ポジショニングが重要な要因になっていきます。
いわゆる「マーケットイン」が必要な状況です。
このような市場では、我々はどう言ったことに力を入れるべきでしょうか。
答えはシンプルで、それは
顧客に近づくこと
です。
顧客に近づき、その深いニーズをくみ取ること、そして顧客のトータルの便益(これをプロフィットゾーンと言いますが、第12回で取り上げます)を意識した販売をすることが付加価値を高めることにつながります。
例えばスマホを思い浮かべてみてください。
顧客がどんなスマホをほしがっているか、そのニーズ・ウォンツをくみ取り、顧客に響くスマホを企画します。
同時に、購入した顧客が「買ってよかったな」という気持ちを維持するためのブランディングに力を入れます。
ですからスマホのCMは性能よりも、どのようなライフスタイルを実現するものであるかというイメージに訴求するように作られています。
このふたつを押さえると、利益が出やすいわけです。
生産だけではなく企画または販売、あるいはその双方を加えることで高収益を生み出してきた企業は数多くあります。
場合によっては、生産を完全に他社に委ねるということすら可能になります。
Appleなどは、今や企画とブランディングの会社と行っても過言ではないでしょう。
3. 収益を高めるための動き
収益を高めるために自社がなにをすべきかを考えるなら、方向性は二つです
ひとつは、
市場との関係を保ちつつ、高度なすりあわせを必要とするより特殊な商品を生み出す
こと。
もうひとつは
付加価値の高い企画/販売にビジネスの重心を移し、生産は徹底的にコストを削減する
ことです。

共通して言えるのは
顧客が価値を感じる部分に資源を投入する
ということです。
御社はどちらの道を選びますか。
次回は、流通戦略と価格戦略について見ていきます。
そこまで理解したら、いよいよ高収益を実現する「利益モデル」の話です。
楽しみにしていてください。