前回はバリューチェーンの中のどのプロセスで価値を生むかについて考えました。
そもそも、バリューチェーン全体を一社で担うなどということは現実的ではなく、他社との役割分担や協働の中で我々はビジネスを進めています。
今回は、どこまでを自社で内製化し、どこからを他社に委ねるかという点について考えてみましょう。

1. 製造コストと取引コスト

自社で内製化するか他社と協働するかの境界について考える際には製造コストと取引コストに意識を向けます。
製造コストとは付加価値を出すために必要なコスト、大きくは固定費(人件費、地代・家賃、水道光熱費、広告宣伝費、その他)です。
一般的に固定費が高いと利益が出にくクなりますが、下げればよいというものではありません。
たとえば人件費を削ると、利益を生み出す人がいなくなってしまいます。
固定費は利益を生み出すためのエンジンであり、削ればいいものではなく、無駄なく使い切るという考え方が大事です。
取引コストとは、他社と協働する際に必要な、主としてコミュニケーションに要するコストと考えてください。
コミュニケーションのコストが高い相手と組むと、無駄な時間がかかってかえってコスト高になることもあります。
これは顧客を選別するときにも考えるべきことです。

他社と組もうとするとき、コミュニケーションが複雑になるなら組まない方がよいでしょう。
また、特殊な資源を相手に持たれる組み方をしてはいけません。
価値を生み出すためのコアになるプロセスやノウハウを自社が持てるように組み方を考えます。
自社に固有のノウハウがない状態でも簡単に立ち上げられるビジネスもあります。
コンビニチェーンなどはその典型ですが、ノウハウや仕入れ、運営といった経営の「首根っこを押さえられた」状態ですから、実質的には本部(フランチャイザー)に隷属していると言えます。
それでは収益を上げ続けることは難しいでしょう。

逆に取引コストが小さくなる組み方もあります。
細かい仕様やリスクの定義・分担を決めなくても、大まかな発注で必要なレベルの商品が生み出される場合です。
細かなコミュニケーションが不要な状態ですから取引コストは当然低くなります。

2. 外注の条件

なにを外注し、なにを内製化するかを判断する際は、まずシンプルに

製造コスト > 購入コスト + 取引コスト

かどうかを見るとよいでしょう。
購入コストは製造数量によって変わってきますので、どれだけ製造するかで判断を変えるということになります。
その上で、留意すべき点としては

①取引をできるだけシンプルにする=取引コストを下げる
②特殊な資源を特定他社に依存せず自社で持つ、ないしは複数の相手から仕入れることができる。
③信用してつきあえる関係をつくる

という点です。

特に、③は取引コストを下げますし、お互いの信用があるならば、互いに資源を依存でき合うので効率的にビジネスを進めることができます。
ちなみに信用を積み重ねる際に有効なコミュニケーション戦略が

しっぺがえし戦略

です。
詳細はゲーム理論の教科書に譲りますが、簡単に言うと

自分からは決して裏切らない
裏切られたら直後に一度だけ報復する

というやり方です。
このコミュニケーション戦略をとることで、自社(あるいは自分)と関わる人や企業は

出し抜くことを考えるよりも協調する方が利得が多い

ということをすぐに理解します。

3. 力関係からの脱却

他社と協働するということは

自社の存続に必要な資源を外部に依存する

ことであり、互いの資源にどれだけ依存するかによって力関係(Power Conflict)が生じます。
特に中小企業では、大企業との資源の差が大きく力関係として弱くなりがちですが、それでは対等な協働になりません。
できるだけ対等な力関係になるために、力が弱い側はその関係から抜け出すことを考えます。

力関係から抜け出す考え方としては、大きく三つの方向性が考えられます。
第一は、自立化戦略です。
自社で内製化し依存の必要がない状態を作ろうとする考え方で、そのためにより多くの資源を持ちます。
理想的には取引コストゼロの状態ですが、M&Aなどで他社を吸収した際には、「社内での取引コスト」が発生しますので注意が必要です。
第二は、政治戦略です。
別の力関係(特に人間関係)を持ち込んで、取引を優位に仕様とする考え方です。
優位になったとしても相手側が納得していないこともあり、信頼関係は生まれにくくなりますので、あまりお勧めはしません。
第三は、協調戦略です。
お互いに信頼し合い依存市合うという考え方です。
これがうまくできる会社は、少ない資源でよい仕事ができますが、互いの信頼関係をどう作るかが大きな課題となります。
一つのコツとしては、商品の開発段階から一緒につくり、それを標準の状態にするというのがあるでしょう。
地域の経営者コミュニティで信頼関係を築き、その上で協働するということもよくあります。

自立化戦略も政治戦略も短期的には利益を生むかもしれません。
しかし、長期的に利益を生み続けようとするなら、

他社との対等な相互依存

によって、他社の資源を十分に活用できるようにすることを考えるべきです。
特に資源の小さな中小企業では戦略の根幹に据えてもよいのではないでしょうか。
よりよい協調関係をいくつも作ることができれば、それは大きな競争優位につながります。
信用が利益を生む所以です。