今回から数回に分けて、

利益モデル=利益を出すしくみ

について考えていきます。
今回はその前段階として、自社商品の価格の決め方について考えていきます。

1. 価格設定法

価格の決め方にはいくつかの考え方があります。
コストから計算する方法や世の中の流れに合わせる方法、顧客の購買心理を刺激する方法、それらの組み合わせという感じです。

一番わかりやすい価格設定の方法としては、原価に想定利益を上乗せした価格を設定するコストプラスという考え方があります。
性緯線食料品などは仕入れ原価が変われば価格が変わりますが、それはこの考え方に基づいているためです。
わかりやすいと言いましたが、純粋な小売業でない限り、実際の原価は売れてみないと確定しないものです。
コストプラスで価格を決めると言うことは、企画、生産、販売のすべてのプロセスで厳密に原価をコントロールすると言うことであり、考え方のシンプルさに対して、実行面ではかなりの熟達が必要になります。

他社との力関係で価格を決める方法もあります。
これが追従価格です。
業界リーダーの出す商品の価格に合わせるというスタンスになります。
これは結果として相場価格を形成しますので、自社がその中でコスト的に優位にあれば大きな利益を生みますし、逆であれば厳しい状態に陥ります。

需給関係から、最大の利幅を計算した価格の決め方もあります。
いわば

変動相場価格

というべきものです。
同じ商品を時間をかけて販売するときによく用いられる考え方です。
飛行機のチケットは、早く買うほど安く設定されています。
間際で買う人は緊急性が高いため、ある程度高くても買わざるを得ないという判断をするでしょう。
会計的な視点で見ると固定比の割合が高いビジネスで用いられる手法だということになります。
損益分岐点を超え、さらに想定利益を超えれば価格を下げてまで売る必要もなく、むしろ上げておくことで需給関係に見合った価格と利益になるといえます。
そうなると顧客の側も早く買った方が得だという圧力がかかりますので、結果として損益分岐点に早くたどり着くというしくみでもあります。
あるいは、損益分岐点を超え、想定利益を超えてしまえば、たとえいくらで売っても必ず利益を生みますので、最後の段階で価格を下げることもできます。
ビジネスホテルなどは、そういうやり方もしますが、そこに至るまでの競合他社との価格の駆け引きはかなりシビアなものがあります。

ここからは顧客の心理に関係する価格設定について見ていきましょう。
自動販売機での500mlのペットボトルの飲料の値段は概ね150円程度となっています。
これは慣習価格と呼ばれますが、コストプラスや追従によって決められた価格が定着して、

顧客が慣れ親しんだ相場価格

になった例です。
このような価格は、大きく変えようとすると明確な理由が必要になります。
逆に言えば

差を明確にすることで価格を上げられる

ということでもあります。
また、コスト優位があれば慣習価格より低い価格を設定して、

お得感

を生み出し、市場のシェアを拡大することも可能です。

品質の差やブランド価値に基づくステータスによって高い価格を設定する場合もあります。
大手ブランドの価格設定が典型的ですので名声価格と呼ばれます。
これを少し応用すると、同じ企業の商品でもあえてランクを分けることで価格を上げることも可能になります。
基本機能は同じで、少し機能をアップし、さらに

高級感・プレミアム感を付加する

ことで、機能差以上の価格差を生み出していきます。
ここで重要なのは

顧客にとっての高級感・プレミアム感

が価格差の要因であるという点です。
顧客にとっての品質を追求すると、思わぬものが高級感・プレミアム感を生みます。
有名人が使っている、今しか買えない、特殊なパーツを使っている、特別な用途等々、顧客にとっての高級感・プレミアム感を探しましょう。
これは商品展開を考える上でとても重要ですので、意識しておいた方がよいでしょう。

価格設定の最後は、端数をつけることで安いと感じさせる手法です。
10,000円よりも9,800円というやつです。
これを端数価格と呼びますが、8という数字がもつ心理的効果(ないしは錯誤)は、価格に敏感な人ほど大きいようです。

2. 新商品の価格設定

ここまでは一般的な価格設定法について考えてきました。
ここからは新商品ないしは新市場での価格の決め方です。
まだ価格相場が決まっていない市場でどのような価格設定をするかは、その市場に対する見込みによって大きく変わります。

簡単に言うと、市場シェアを獲得すれば長期的な利益が見込める場合は、初めのうちは低い価格で売り出します。
これを市場浸透価格と言います。
規模の経済性が生きるやり方ですので、基本手金は大企業向きと言えるでしょうが、市場が全く存在しない本当のトップランナーの場合、この価格設定をせざるを得ないこともあります。
その場合は、将来の値上げに備えて

本来の価格より安く提供している

という理由付けをしておく必要があるでしょう。

一方で、高品質の新商品に高い価格を設定するという方法もあります。
これを上澄み吸収価格と言います。
イノベーターやアーリーアダプターに高い価格のものを提供し、彼らの使い方を見ながら品質を削り、あとから買う人には機能も価格も抑えた廉価版を数多く提供するというものです。
資本力のない中小企業では、こちらのやり方を考えるのがよいかもしれません。

3. 収益構造と価格設定

最後に、収益構造、すなわちどこでどうやって利益を出すかというしくみに連動した価格設定について見ていきましょう。
これが次回以降ご紹介する

利益モデル

につながります。

複数の商品を組み合わせて、セットで売る場合、組み合わせた価格を抱き合わせ価格と言います。
一般的には高くて利益率の低いものと、安くて利益率の高いものを組みあわせます。
見かけ上の割安になる一方で、顧客獲得コストをゼロにすることで、結果として利益が上がります。
利益を増やす手法として現場で考えやすいものでもありますので、よかったら自社で抱き合わせ価格を考えるワークをしてみてはいかがでしょう。
売上と利益の関係を社員さんが理解する役にも立ちます。

商品ラインのランクごとに段階的に設定する、いわゆる「松竹梅」の価格設定をプライスライニングと言います。
顧客の購買力やニーズに応じた価格設定をしますが、最低限のグレードとトップグレードを定めると、多くが中間グレードを購入する傾向があると言うことがよく知られています。
応用パターンとして自動車保険は面白いのではないでしょうか。
保証のランク分けをしていますが、運転に自信がない人は、保証の厚いものを買う傾向になります。
自動的に、リスクの高い人が高いものを買ってくれるわけで、保険会社としては「誰がハイリスクか」を見極めなくても顧客が自分で考えてくれるというわけです。
残念あがら、無自覚な人には通じませんが・・

最後に、特に戦略的だなと言える価格設定の考え方としてキャプティ価格を紹介しましょう。
これは主たる商品の価格を安く設定し、消耗品のような付随する商品の価格を高く設定するというものです。
初期費用が大きくなると売れにくいものを売れやすくすると同時に、消耗品やメンテナンスで長期的に利益を確保する手法につながります。
家庭用のプリンターなどはその典型ですが、消耗品を他社が安く提供して、熾烈な戦いが生じています。

様々な価格設定の考え方について見てきましたが、これらは自社がどのようなビジネスモデルを持っているか、特に高収益のためにどのような利益モデルを用いているかによって変わってきます。
次回はその利益モデルについて見ていきましょう。