前回から財務の話をしていますが、そもそも財務ってなんでしょうか?
財務とは、一言で言えば
会社全体で資金をどこかから集めて、使って、増やすかをマネジメントすること
です。
それに対して会計は資金の動きを記録することで、社外への説明責任を果たしつつ経営に必要な情報を引き出すための活動です。
会計には、税務会計、財務会計、管理会計がありますが、これらは大まかに
・税務会計は、税金を計算するための記録⇒税務署のルールで記載
・財務会計は、財務のための会計、資金調達のために使う。⇒投資家が判断できる共通ルールで記載
・管理会計は、経営判断に必要な情報を引き出す⇒社内の独自のルールで記載
するものと理解すればよいでしょう
目次
1. 財務の目的は利回り
改めて話を財務に戻します。
少し事例で考えてみましょう。
投資用の中古ワンルームマンションを購入したとします。
(おまけ:マンションは新築時には高いですが、買った時点で値が下がり、数年でさらに下がり、そこからしばらくは安定します)
一部屋600万で買うとしますしょう。
都会の便利な場所だとワンルームの家賃は月に6万円程度ですから、年間72万円になります。
諸経費を引いても年間60万円程度になるでしょう。
そうすると600万に対して、年間の利回りは10%ということになります。
ここからは会社の話です。
中小起業では、株主が直接経営するオーナー企業が多いのが現実です。
そこで、経営者としてではなく株主として自社を見たらどんなことになるでしょうか。
毎年10%ほどの利回りになっているでしょうか。
それだけの配当を得られているでしょうか。
もし得られていないとするならば、その投資は中古マンションの投資よりも利回りが低いということになります。
もちろん「配当はほとんどないが役員報酬で十分に回収している」という場合も当然あるでしょう。
しかし、
もし他人に経営を委ねたら、同じ条件役員報酬と配当で満足できるでしょうか。
財務とは資金のマネジメントです。
マネジメントとは
経営資源を調達し、活用し、増強することです
従って、財務とは
資金を調達し、活用し、増強する(増やす)こと、すなわち高い利回りを維持すること
に他なりません。
この感覚を磨くために、経営者は貸借対照表(Balance Sheet B/S)を理解し、活用する必要があります。
2. B/Sを理解する① 資金調達
B/Sは大きく左右に分けて読み解きます。
B/Sの右側には会社に必要な資金をどこからどれだけ調達したかが記されています。
上から大きく
負債と純資産
に分類されます。
負債とは、銀行などの社外の債権者から調達した資金のことです。
負債には金利がかかりますが、それは一時的に必要な金を調達するためのコストと考えられます。
純資産は資本金と利益剰余金に分割されます。
資本金は株主が出資した資金です。
中小企業では経営者が100%株主ということも多く、資本金の調達コストは意識かな抜け落ちがちですが、本来なら調達コストとして配当を支払う必要があります。
その場合、経営者は会社から見てコストのかからない資金調達先として扱われていることにもなります
(実際には経営者からの負債というのもありますね。この場合も調達コストゼロで考えられることが多いようです)。
利益剰余金は、毎年の会社の純利益を積み上げたものです。
これは会社の活動を通して蓄積されるもので、調達先は会社自身となります。
では、この場合の調達コストは、会社を経営するコスト、もう少し突っ込んでいえば会社の固定費と思えばよいでしょう。
利益剰余金は、利益を出して、それに見合った税金を払って、残った金額しか蓄積できません。
「税金を払って会社に貯めるより、社員に配当した方がよい」という場合、利益剰余金は上がりません。
「零細企業で、家業的に、家族だけ食べられたらそれでよい」という場合も利益剰余金はあまり増やそうとはしないでしょう。
それがよくないということではなく、利益剰余金を積み上げるかどうかという判断には
自分の会社をどういう状態にしたいかという、基本的な思想が反映されている
ということだけ意識しておきましょう。
さて、このように、会社が調達する資金にはそれぞれ調達コストがかかっています。
したがって、それらの資金を投入して事業を行う場合
得られる利益 > すべての資金の調達コスト
でなければなりません。
逆に言えば
資金調達とは、自社の利回り以下のコストで資金を集めること
となります。
3. B/Sを理解する② 資産運用
B/Sの左側は、調達した資金がどのような姿になっているかを記載します。
それが
資産
です。
資産には、大きく分けて
流動資産と固定資産
の二種類があります。
B/Sの左上の談に記載する流動資産とは、現金またはすぐ(真面目に言えば一年以内)に現金化できるものを指します。
この流動資産が少ないと、負債(特に1年以内に返済する流動負債)の返済に困りますのである程度は持っておく必要があります。
また、流動資産は様々なものと交換できますので、これが十分にあるということは何に資金を投入するかを選びやすいということを意味します。
たとえば、新型コロナの影響で受注が激減したときでも手元の現金(またはすぐに現金化できるもの)があると、社員の給料をまかなうことも可能です。
流動資産は、変化対応力の源泉でもあります。
ただし、流動資産の中でも注意が必要なものとして
在庫
があります。
在庫は資産に入ってはいますが、本来
売れて初めて金になる
ものですので、売れるまではいわば帳簿上にはあっても実際にどうなるかわからない「幻の資産」でしかありません。
売掛金も同様で、回収できるまでは同様に考えるとよいでしょう。
一方左下に記載する固定資産は、1年以内に現金化が難しいものを指します。
土地・建物、機会・装置、ソフトウエアといったものがこれに含まれます。
固定資産は「現在の利益」(現在のビジネスで生み出している利益)の源泉です。
例えば、製造業では製造機械がなければ商品を生み出せませんし、運送業ではトラックは必須のものです。
ただし、全体の中で固定資産の割合が多い会社は、逆に現金化が難しく変化への対応が遅れがちになります。
固定資産は現金化が難しい、すなわち
キャッシュの滞留時間が長い
資産ですので、持つか持たないかの判断は常に考えておく必要があります。
言葉を選ばずに言えば
収益につながらない資産は負債と同じ
くらいに考えて、自社のビジネスモデルに合った、あるいはビジネスモデルの変化にあった資産を持つようにする必要があります。
そう考えれば、機械も土地も自社で持つものと借りるものを切り分けた方がよいという考えにもなるでしょう。
「現在の利益」の源泉である固定資産と、変化対応力の源泉となる流動資産
の配分は、とても重要な経営判断となります。
さらに固定資産については、B/Sに記載されている数字が
数字は帳簿上の数字=簿価
であるという点です。
実際にその固定資産を売った場合の価格=時価
と簿価は多くの場合違う数字になります。
時価計算したとき、資産価値が目減りしていて必要なキャッシュが得られない、などと言うことはごく普通に生じることです。
いずれにせよ重要なことは、経営者は
期待する利回りを生み出せる資産の構成になっているか
という目で自社の資産を常にチェックするということです。
それによってB/Sは、自社を利回りの大きな会社とするための武器になります。