前回に引き続き、B/S(貸借対照表)の活用の仕方について見ていきましょう

1. 会社の持ち主は誰か

B/Sに記載されていることを十分に理解すると、自社にとってどのようなB/Sが望ましいのかというイメージを持つことができます。
まず、B/Sの右側から見ていきましょう。
前回の内容になりますが、B/Sの右側には、会社の運営に必要な金をどこから調達したかが記されています。
上から負債(債権者の金)、資本金(株主の金)、利益剰余金(会社の金)の淳に記載されています。

少し乱暴な言い方ですが、資金を提供しているということは会社の一部を持っているということでもあります。
つまり、「他人」と「株主」と「会社」がその会社の持ち主だということです。
これらの割合は会社ごとに違います。
多くの出資を募り、その資金力で事業を運営するなら、その会社の持ち主は出資者ですし、銀行から多額の借り入れをしているなら会社の大きな部分は実質的に銀行のものということになります。
オーナー企業で、株主=経営者という場合には

資本金+利益剰余金=純資産(自己資本)

の分だけ会社を所有しているという感覚でいるのが健全でしょう。
もちろん、非常に収益性の高い事業を行っている場合、多くの融資を取り付けることもできます。
その場合は

銀行などの債権者が、資金を出させてください

と行ってきているのに等しい状態ですから、これは支配権を握られることはありません。
実際にはそれくらいの状況であれば、融資よりは投資を呼び込むことの方が多いでしょうが。

そうでない場合には、「債権者の会社」になるメリットはありません。
であれば、利益剰余金を積み上げて「自分たち自身の会社」にしておいた方がよいでしょう。

2. B/Sのカタチを変える

流動負債、固定負債、あわせた負債が圧倒的に多い会社は、実質的には他人の会社です。
銀行借り入れが半分なら、半分以上銀行の会社だと思うべきです。
特に注意すべきは1年以内に返す必要のある流動負債です。
いわゆる運転資金として調達していることが多いですが、いざとなったら流動負債に関してはすぐにでも返済できる状態を作っておくべきです。
それが

流動資産 > 流動負債

という状態です。
流動資産が少ないと、日々稼いだ金で借金を返さないといけません。
年度末になって、利益が出ているのにキャッシュが不足するなどと言うことも起こりえます。
この状態は常に経営に余計な圧力を与えますので、できればこの状態を脱したいところです。

流動資産に続いて固定資産について見てみましょう。
固定資産は利益を生み出すエンジンですが、環境が大きく変わってビジネスの継続が難しくなった際には大きな足かせになることもあります。
たとえば観光地の旅館を思い浮かべてください。
温泉や立派な建物・設備が利益につながることは明らかです。
そのために資金調達をして設備投資に回します。
この設備投資が過剰であった場合、負債が大きく経営を圧迫するようになります。
逆に、建物や設備を安価に購入できた場合はどうでしょうか。
それだけで断然有利になることがすぐにわかります。
実際に全国で固定資産を抱えすぎて結果として破綻した旅館も多く、それらを安価に「仕入れ」て再生させている事例も数あります。

固定資産について注意すべき点はもう一つあります。
それは何らかの理由で現在のビジネスを続けられなくなった場合です。
特殊な製品を作るための工作機械があったとしましょう。
その製品を作っている間は、その機会は利益を生みますが、その製品が作れなくなると利益を生めなくなります。
さらに他のことに転用できるものでなければ、帳簿上の価格(簿価)よりも遙かに低い価格でしか売却できません。
帳簿上で1億円と記載されている固定資産が、実際に換金すると100万円にしかならなかった・・などと言うことも起こります。
経営者としては、簿価が記載されたB/Sだけではなく、固定資産を売却したらいくらになるかという数字を盛り込んだ

換金貸借対照表(換金B/S)

を年に一度作成することをおすすめします。
それによって、持つべき固定資産とそうでないものの判断がシビアになり、より利益に貢献する固定資産を持つ経営スタイルになるからです。

最後に考えるべきは利益剰余金です。
利益剰余金は、毎年の税引き後利益(純利益)を積み立てたもので、いわば会社の貯金です。
会社が貯金するのはなんのためでしょうか。
基本的に個人が貯金をする理由と大きな違いはありません。

会社が貯金をする=利益剰余金を蓄える理由は

①不測の事態に備えるため
②変化対応して新たなビジネスを生み出すため

のふたつです。

①は、昨年来の新型コロナウイルス感染症の影響をふりかえるとすぐに理解できます。
何らかの理由で急にビジネスを止めざるを得ないとき、事故や災害でダメージを受けたときに、事業を継続させ雇用を守れるのは十分な利益剰余金がある企業に限られます。
その観点から考えると、利益剰余金は社員の人件費1年分程度、ひとりあたり1000万円程度は積み上げておきたいところです。
それだけの利益剰余金があれば、社員は会社に対して安心感を抱き、長期的な展望を持つようになります(そのためには利益剰余金の意味を全社員が理解していることが条件ですが)。
こうなると社員が定着し、人材育成やノウハウ蓄積も進み、最終的な競争力の源泉である「見えざる資産」が強化されます。

このように

「見えざる資産」の強化につながったとき、B/Sが内向きに武器になったと言えます。

②は、事業開発のための投資資金です。
新たな事業を始める場合、プロトタイピング、テストマーケティング、市場投入と、各段階で資金が必要になります。
必要な資金を借り入れる場合にも

十分な利益剰余金があることが資金調達を容易にします。

このように

資金調達が容易になったとき、B/Sが外向き武器になったと言えます。

純資産を意味もなく蓄えても武器にはなりません、B/Sを武器にするという目的をもって純資産の目標を掲げることが、強い会社への近道だと言えるでしょう。