今回は財務や会計の話から少し幅を拡げる形で、人や組織について考え始めましょう。
ここまで、連続的競争優位を生み出すための、「強いビジネス」と「強い財務」について考えてきました。
ここからは、「強い人・組織」について見ていきます。
目次
1. 強い人・組織とは
まず、どういう人や組織が強いと言うべきでしょうか。
様々なお考えはあってよいですが、私自身は
利益を生み出し続ける人や組織が「強い人・組織」だと考えています。
それは、環境変化の中でも、顧客に対して価値を提供できる人と組織という意味になります。
企業が顧客に価値を提供することで存在する以上、自明のことではないかと思っています。
そう考えるなら、組織として、その中に参画する個人として十分な利益を生み出せるようにすることが、マネジメント上の大きな課題になります。
マネジメントとは、
顧客に価値を提供するための経営資源の調達、活用、強化のプロセス
のことですが、人材に着目すれば
人を採用し、利益を出せるように支援し、成長させるとりくみ
ということになります。
その観点から、マネジメントについて少し考えてみましょう。
特に、中小企業が連続的競争優位を獲得するために必要な「見えざる資産」は、OffJTの研修ではなく日常のマネジメントの中でこそ強化されますので、
日常のマネジメントの積み重ねが組織の力を強化する
という認識で、いつも取り組んでおく必要があります。
とは言え、どうすればよいのか、にわかにはイメージできないかもしれません。
そこで、最初に「現在の利益」を生み出すためのマネジメントである戦術的マネジメントからひもといていきましょう。
2. 利益に対する責任:現場社員の責任
戦術的マネジメントを考え、改善する際のキーワードが
責任利益
です。
責任利益の全体像を示したのが次の図です。
現場、管理者、経営者とレベルわけをしています。
図の右に行くほど、「将来の利益」やP/Lの下の方の利益に対する責任分担が大きくなり、左のほうでは責任が「現在の利益」に限定されます。
左から順に見ていきましょう。
一番左のレベルは新入社員や、アルバイト、インターン生です。
このレベルではまず、やらなければいけないことをやりきれることが求められます。
そのために上司や先輩が、マニュアルも利用しつつ仕事のやり方を教え、少しずつ任せていきます。
ここまでは、特段の権限を与える必要はありませんが、自らの行動目標の設定と、それを達成するプロセスの支援は必要になります。
行動目標自分で設定し達達成するプロセスの中で、その目的としての数字(まずは限界利益)を意識できるようになると、第2ステップに進みます。
第2ステップでは、個人単位の限界利益(粗利益で結構です)を意図的に生み出すことを目指します。
そのためには
売上と変動費をコントロールする権限
を与えることが必須条件となります。
仕入れ先を変えたり、売上を高めるための行動をとる権限、利益率が高いやり方を試す権限、これらができることで限界利益目標を設定し達成するすることができるようになります。
例えば売上を上げるように促したとして、客数と客単価の数字は現場に開示しているでしょうか。
新規顧客と既存顧客の動きを見て、どちらへのアプローチを強化するかを考えて実行する、などといったことを現場の判断でできるようにしているでしょうか。
顧客の購買頻度を高めるための取り組みを現場の判断でできるようにしているでしょうか。
こういったことが、現場に対して委譲すべき権限です。
こうした権限委譲を進める中で、包装資材の仕入れ先と内容を変えることで年間数十万のコストを下げた総務課員がいました。
これはそのまま利益の数字になります。
そんな強力なバックオフィスが育つと、私などはウキウキしてしまいます。
権限委譲のわかりやすい効果ですね。
3. 利益に対する責任:管理者・幹部の責任
管理者の利益責任は、まずはチームとしての限界利益の目標を設定し達成することです。
その際に管理者自身ではなく、部門のメンバーが利益を生み出せるように仕事のスタイルを変えることが重要です。
自分が数字を作るのが一番早い!・・・という考えから脱却しないとよい管理者にはなれません
チームとしての限界利益を生み出せるようになった管理者には、固定費に対するコントロールの権限を可能な限り与えます。
それによって、部門としての営業利益の目標を設定し達成するように求めます。
それは言い換えると
管理職は部下の力を引き出して部門の営業利益を上げることが責任
であると、仕事を定義することに他なりません。
固定費は、どれだけの付加価値・限界利益を生んだのかで評価し、マネジメントされる必要があります。
いわゆる固定費生産性という考え方です。
以前書いたように
固定費は利益を生み出すエンジン
ですので、むやみに削ってはいけません。
極端な話、人件費をゼロにしてしまっては誰も利益を生み出す人がいなくなります。
では、どのようにコントロールすればよいのか。
価格に反映させて顧客が納得するもの
のみを使うという考え方があります。
たとえば、ハイブランドのジュエリーをプレハブの店舗で売る代わりに値引きをするといったら顧客はどんな反応をするでしょうか?
むしろ買わないという選択をするでしょう。
高い家賃、高級な内装、質の高いスタッフや警備員・・・これらすべての固定費を顧客は納得しています。
であれば、それはむしろ使うべき固定費です。
逆に、牛丼屋のお店がとても高級な内装で、その代わりに一杯1500円の値段がついていたらどうでしょうか。
納得する顧客はいたとしてもごく少数でしょう。
これは使ってはいけない固定費の例です。
無駄金を使って、顧客への価格に上乗せしない。あくまで基準は顧客
ということを意識しておくのがよいかなと思います。
その観点で見たとき、社長が会社経費で乗っている車はどうでしょう・・・
4. 権限委譲とは
さらに図の右側、経営者や経営幹部になるとさらに重い責任を負うことになります。
経営幹部は全社の営業利益を生み出す責任を負い、そのために各部門に対して固定費をコントロールする権限を持ちます。
経営者は、営業利益ではなく、
営業外損益をコントロールして、自社の経常利益を生み出す
ことが求められます。
投資も資金調達も、経営者だけが権限を持っているわけですから、これらに対する責任も経営者が負います。
さらに、その先にはB/Sの強化、ROAの向上や財務力の強化の責任を負います。
ここまでのところで意識しておきたいのは
立場、すなわち権限と利益に対する責任は対応している
という点です。
限界利益を求めるのであれば変動費をコントロールする権限を、営業利益を求めるのであれば固定費をコントロールする権限を持たせることが必須条件です。
これは裏を返せば
権限委譲とは、利益に対する責任を課すことである
という意味にもなります。
利益に対する責任を果たせるだけの権限を委譲するというのが権限委譲の基本的なスタイルです。