今回から、戦略実行をテーマに書き進めていきます。
戦略実行とは、文字通り策定した戦略を実行するプロセスですので、まずは戦略を立てるというところから話を始める必要があります。
ところで、戦略ってなんでしょう?
経営学に関するいろいろな分野の書籍を読むと少しずつ違ったことが書かれていますが、ここでは

中期ゴールを実現するために、どのような課題を、どのような順序で、どれだけの資源を投入して解決するかというストーリー

と定義しておきます。
この定義のよい点としては、

①中期ゴールを明確にし、そこに至るための課題をあぶり出す必要が生じること
②年次の計画に落とし込みやすいこと
③資金や人材といった経営資源の調達と運用に意識を向けるようになること

が挙げられます。
これらが明確になると、日々の経営のかじ取りがずいぶんスムーズになるのではないでしょうか。

さて、中期ゴールの前にその軸となるビジョンとミッションについて考えてみます。

1. ビジョンとミッション

ビジョンもミッションもよく耳にする言葉ですが、それぞれ何を表しているでしょうか。
これも、様々な書籍でいろいろな定義が記されていますが、ここでは

ビジョン:自社はどうありたいか、何を追求し続けるか
ミッション:自分たちが世界に対してどのような貢献をしようとしているかという価値観や原則

としておきます。
ビジョンのポイントは、「追求し続ける」という点にあります。
一度実現すればそれで終わり、というものではなく、ずっと追い求める

見果てぬ夢

として表現するのがよいでしょう。
たとえば個人のビジョンとして、「健康でありたい」としたなら、一瞬だけ健康になっても仕方ありません。
健康であることを追求し続けることになります。

そのビジョンに向かう際の自社の軸となるものがミッションです。
ミッションは、

①我々はどんな世界を作ろうとしているのか(意図と目的)
②我々はどうやって目指す世界を作るのか(機能と大戦略)
③我々は誰に直接価値を提供するのか、幸福にするのか(関係者)

という三つの問いに答えることで言語化することができます。
中小企業でよく作る理念は、このミッションに近いものが多いのではないでしょうか。

ビジョンもミッションも言語化していなければいけないというルールはありません。
しかし、ビジョンがあることで企業の「あり方」が定まり、それが活動の軸であるミッションを定めます。
その先に、具体的なゴールを描き、戦略を策定できるようになります。

2. ゴール

ゴールとは、ビジョンを追い求める過程での期限を区切った到達ポイントです。
これは、ミッションと、外部環境の変化や内部資源の充実についての見通しを組み合わせて考えます。

ゴール設定のポイントは、

言葉と数字で表現する

ことです。
言葉は、ゴールに至ったときに自社や社員、関係者がどうなっているかをできるだけ具体的に表現します。
具体的にすればするほど、従業員を駆動する力になります。
一方の数字は、ゴールに到達したかどうかを判断する指標として設定します。
指標ですから

なにが(尺度)どれだけ(数値)達成できていたらゴールに到達したと言えるか

というカタチで表現します。
これがKGI(Key Goal Indicator)です。

KGIの尺度としては通常利益に関係するものを用います。営業利益、経常利益、純利益、あるいはROAやROEを用いてもよいでしょう。
特にROAやROEといったバランスシートに関わるものは、長期間にわたる継続を要しますのでゴールの指標として用いることをおすすめします。
そして、少なくとも経営者・経営幹部は、社内のどんな活動が数字に反映されるかを理解してマネジメントに取り組む必要があります。
できれば、管理者や一般社員にまで理解が広まると、利益体質の会社になりますのでチャレンジしてみてください。

さて、一般的にはゴールとしては5年ないしは3年程度の中期のものを設定しますが、思い切って大きな将来展望を語る際には20年ゴールを設定するのもよいでしょう。
20年先を考えると、外部環境の変化も内部資源の充実もほぼ読めませんので、経営者の願望ないしは「おおぼら」が表現されます。
それが強い意志として経営者を駆動する力になるなら、大いに示すべきだと思います。
たとえば

20年後に自社の規模(総資産でも、純資産でも、売上、社員数でも結構です)を現在の10倍にする

という長期ゴールを設定したとします。
これは「おおぼら」でしょうか。それとも現実的な長期ゴールでしょうか。
少し計算をしてみます。
毎年10%の成長をする企業があるとしたら、その企業は7年で約2倍に成長します。
そのペースを守れば14年で4倍、21年で8倍、28年で16倍・・ということになります。
もちろん机上の計算通りに進むとは限りませんが、ここで言いたいのは

20年で10倍にするというのは毎年10%ちょっとの成長を継続させること

で実現可能だと言うことです。

3. 中期ゴールと戦略コンセプト

長期ゴールまでの道のりを、5年または3年ごとに区切ったとき、その最初の5年(または3年)のゴールが中期ゴールです。
企業がコンスタントに成長するとすれば、それは指数関数的、というか雪だるま式になります(努力なしに実現はしませんが)。
そのように仮定すれば、20年後のゴールに対して、最初の5年で1/8まで、次の5年で1/4まで、その次の5年で1/2まで進むんだという設定ができます。
「そんな風にうまくいかないよ」ではなく、これを実現するためにかく年で何をするかを考えるのが戦略策定、実際に進めるのが戦略実行です。
ゴールにたどり着くために、外部環境の変化と自社の強みがマッチされているか、どうすればマッチさせられるかを考え、生み出していくのです。

しっかり考えられたよいゴールは、以下の四つの特徴を持ちます。
第一に、実現可能であること。
これは安穏としていて実現できると言うことではなく、全社で精一杯の力を発揮すれば実現可能であるという意味です。
第二に、信頼性が高いこと。
必要な情報を調べ、外部環境の変化や社内の資源の状況、今後の増強計画などが明確であると言うことです。
実現可能性を下支えする情報です。
第三は魅力的であること。
これは、経営者だけではなく、すべての社員が関わりたくなるようなものであるという意味です。
ここでは、ゴールを表す言葉が重要になります。
あるいは、ゴールにたどり着いたときに一人一人の社員がどうなるかを言語化しておくことで、魅力を高めると言うことも考えてよいでしょう。
第四が、望ましいものであること。
これは、20年後の長期ゴールにむけて、適切な中間ポイントになり、次につながると言うことです。

逆に言えば、これらの条件を満たすように経営者・経営幹部は中期ゴールを設定することが求められます。

中期ゴールが設定されたら、それに向かう大方針を定めます。
たとえば「BtoBからBtoCに展開する」、「ものづくりからプロデュースへ展開する」といった大まかな方向性です。
これを

戦略コンセプト

と呼び、その先5年間の様々な判断の基本軸となります。
例えば、現場で新しい取り組みに挑戦しようという場合にも、この戦略コンセプトに沿ったものにするという枠がかかります。
そして、この戦略コンセプトに従って、解決すべき経営課題を洗い出し、どんな順序で、どれだけの資源を投入して解決するかをまとめていきます。
そのストーリーが戦略となります。
その策定のプロセスについては次回以降の話としましょう。