
今日は趣向を変えて、以前取り組んだ指定管理者の仕事についての考え方をまとめてみます。
指定管理者を単なる施設の管理と思ったり、その先に自団体の「安定収入」と見なしたりという事例を散見するので(それが悪いというわけではないです)、それとはちょっと違った自分のスタンスを書き残しておこうと思いました。
何かのお役に立てれば幸いです。
目次
1. 指定管理者ってなんだ
私がかつて指定管理者として館長職を拝命したのが大阪府立青少年会館。
若者の芸術活動の拠点として認識されている施設でした。
この施設、法的には大阪府が府民の福祉を増進する目的で、府民が利用することを想定して設置している施設ということになっていました。
こういうのを地方自治法(244条)では公の施設と呼び、地方公共団体が設置し管理するのが原則となっています。
それでも従来は、条例によって
1 地方自治体の出資法人で政令で定めるもの(1/2以上の出資等)
2 公共団体3 公共的団体(自治会、農協等)
に管理を委託する事ができるとされてきており、そのために専門性を持った外郭団体がつくられたりもしてきました。
2003(平成15)年の地方自治法改正に伴い、この公の施設の管理運営を、地方公共団体が指定する者、すなわち指定管理者が代行することができるようになりました。
指定管理者の指定は、その施設に関する条例に基づき、議会の議決を経る必要がりますが、指定管理者となるための基本的要件として法人格の種類は問われておらず、仕様に合うなら任意団体でもよいとされていました。
ここまでまとめてみて、多くの人は「で?」という感覚ではないでしょうか。
ここまでの法令上の指定管理者の概要を見てもさしたる意義は感じられず、単純に委託先の選択肢が拡がっただけに見えます。
しかし、実際には従来の管理委託制度と指定管理者制度の間には大きな違いがあるのです。
それは、権限と業務の範囲の問題です。
管理委託制度では、地方自治体の管理権限の下で契約に基づき、具体的な管理の事務・業務を管理受託者が執行することになっていて、施設の管理権限及び責任は、施設の設置者である地方自治体が持っています。
もっとも端的な例として、施設の使用許可権限は委託できないとされている。
一方、指定管理者制度では、条例に基づき指定管理者が施設の使用許可権限を持つことになっています。
簡単に言えば、大坂府立青少年会館の場合、管理委託制度では利用許可はあくまで大阪府知事の権限であったのが、指定管理者制度では指定管理者のその権限がゆだねられるというわけです。
極端な話、条例の認める範囲内であれば、館長の権限で使用を許可しないということもできたりするわけです。
実際、私の判断で「出禁」にした利用者さんも何組かありました。
これは、少し難しくいえば一定の公権力を地方自治体の代わりに行使するという組みなのです。
それだけに、新たな公のあり方を模索する先駆的な取り組みでもあり、それぞれの指定管理者のガバナンスに大きな責任が問われることでもあったわけです。
2. 指定管理の期間と戦略
地方自治法第244条の5によると 指定管理者の指定は、期間を決めて行うものとするとあります。
この「期間」というのはいったいどれくらいのものでしょうか。
大阪府の場合は
1 建物等物理的施設の維持管理や定型的業務が主たる業務である施設
・・3年程度
2 事業の企画力やいっての専門性が必要とされる業務が主たる業務であり、 人材育成やノウハウの面で継続性、安定性を要する施設
・・5年程度
という切り分けがされていて、これ以上長期の指定管理期間を設定する場合には、その必要性、合理性を明確にしなければならない、ということなので、よほどのことがない限り最大5年間と考えるのが妥当な状況でした。
つまり、どの様な施設の指定管理者になるにせよ、5年後には指定管理者ではなくなるという可能性を考慮しつつ、事業計画や経営計画、管理・運営計画、投資計画、人材育成計画をたてる必要があったわけですが、実はこれがかなり難しい。
新規事業を立ち上げた場合の5年後の出口をどうするかどの程度の事業拡大を目指すか。
どこにどれだけ投資して、指定管理期間中にどの様に回収するか。
施設の運営に必要な人材をどの様に確保・育成するか。
表面に現れるのは最大5年の計画ですが、5年先を見て運営していてはうまくはいきません。
少なくとも20年くらい先のビジョンを持った上での、中期計画として5年間の計画を立てる必要があるのです。
5年後には完全に無駄になる可能性すらある計画を立てるわけですから、これはもう、賽の河原で石を積むにも似た気分です。
だからといって、引き継いだ日々の業務だけをこなしているのでは、指定管理者の意味はなく、最悪の場合、単なる安い下請け業者になってしまいます。
長期的視野を必要としながらも、中期的な活動しかできないという二律背反の中で、施設の効用の最大化を目指すのが指定管理者に課せられた使命になる。
3. 施設管理運営の「効率性」
施設の効用の最大化とはどういう事でしょうか。
あえて簡単に翻訳すれば「なるべく安い費用で、その施設の目的を最大限果たす」こと、言い換えれば 施設管理運営の「効率性」と「効果性」を同時に追求するということになります。
それは、その施設に対する社会的投資のリターンを最大化するという考え方でもあります。

公の施設の管理に民間が参加する際には、「効率性」すなわち、「なるべく安い費用で」の部分に期待と注目が集中しますし、それを「売り」として参入を図る事業者も多くいます。
実際、民間事業者が指定管理者場合、真っ先に手をつけるのが人件費です。
一人当たりの給与の問題もありますが、むしろ固定費生産性の観点からあまりに無駄な人員配置がなされている場合にそれを是正しテイク必要があります。
このあたりの自由度について受託前に使用を確認しておかないと、実は思うように人件費の削減ができなかったということもあり得ます。
私がお預かりした会館を例にとると、館長・副館長を含む全てのスタッフが基本的な受付業務をこなせるようにしました。
これは、お客様の待ち時間を減らし、スタッフの無駄を減らし、管理職がお客様の声を直接うかがう機会を増やす効果があると同時に、無理なくスタッフの数を減らす事ができるというメリットもありました。
このほかにも、委託業務の見直しや、水道光熱費の削減等、様々なコスト削減がなされましたが、実際には、これは言葉で言うほど簡単ではなかったのです。
たとえば、一部の業務を委託していた業者が「実は前の契約の時に間違えた見積もりを出してしまって、それで泣く泣くやっていたんですわ」などと言い出し、新規契約時には年間数百万の上乗せを要求してきたり(次年度別の業者さんに変更)、「民間企業になったのだから、契約条件を厳しくします」(某インフラ会社さん)などという話もありました。
自治体との契約とくらべてメリットが小さくリスクが大きくなっているという判断が働いたのだろうと思います。
このような状況で管理経費の削減を図るには、各業務の精査がどうしても必要で、それぞれの業務に対してどの程度の費用が妥当なものであるかを見極める能力が求められます。
同時に、内部で処理する仕事とアウトソースする仕事の切り分けも考え直さねばなりません。
だからこそ専門性を持った事業者が指定管理者になるわけです。
さらに、大きな「足かせ」が一つあります。
それは、その施設の機能を落としてはならないということです。
純粋にコスト削減と利益の向上を狙うのであれば、負担となっている事業を捨て、収益性の高い事業に専念するべきですが、指定管理者にはそれは許されません。
れまで、その施設が担ってきた役割とサービスを100%維持し、さらに発展させなければならなりません。
明らかにコスト割れを起こしている部門に関しても、捨てることは許されず、改善し黒字化を図っていくことが要求されます。
指定管理者にとって、人件費以外のコスト削減は、かなりの努力と発想が要求される作業なのです。
しかし、それを乗り越えなければ新たな価値を付け加えることはできません。
指定管理者として新しいことをやろう!・・という意欲を持つのであれば、まず既存の機能を徹底的にローコストで実現するというところがスタートラインになるのです。
4. 施設管理運営の「効果性」
公の施設には必ず「設置の目的」というものがあります。
一般論としていえば、その自治体の住民の福祉に貢献するということですが、詳細は施設ごとに異なります。
大阪府立青少年会館は、ホール、スタジオ、会議室を持っていましたが、設置の目的は文化振興ではなく、あくまで 青少年活動を促進し、青少年の健全な育成に資するためのとなっていて、青少年の活動の一つとして、文化活動は位置づけられていました。
一方、どんな施設でも長年利用されるうちに、その施設の「味」のようなものが出てくるものです。
大阪府立青少年会館の場合は、会議室が夜になると実は「芝居の稽古場」として活用されるという状況でした。
もちろん、これは目的外使用であり、この状況を完全に是正してしまうのも一つの方法ではあるでしょう。
しかし、それが本来の設置の目的にかなっているのであれば、うまく活かせるようにしなければ、あまりに甲斐性がありません。
条例の文言を表面的に受け止めるだけではなく、条例の精神を生かした運営が必要なのです。
その際に重要になるのは施設の設置の目的を指定管理者がどれだけ理解し、自分自身の中に確固たる基準を持っているかということです。
その上で新規の事業を展開することが必要なになります。
施設の資源は建物だけではありません。
設備、信用、歴史、ノウハウ、関係する人々・・・多くの資源が集中しているのが公の施設です。
これを狭い視野で用いるのではなく、設置の目的に沿う形で大胆に活用しなければ、あまりにももったいないでしょう。
実際私たちは、これまで会館が果たしてきた機能を保った上で、クラシックを志す若者のためのコンクール、大学生向けのキャリアセミナーやインターンシップ、ギャラリーカフェ、フリーペーパー・・・・様々なアイデアを、設置の目的を果たすために展開していきました。
これが効果性の追求ということです。
5. 平等性の確保と「癒着」
指定管理者に求められることの中で、実は大きなウェイトを占めるのが「平等利用の確保」という問題です。
この、平等利用の確保には
1 特定の人や団体に優先的または恒常的に利用させないこと
2 特定の人や団体の利用料金を、合理的な理由なく減免しないこと
3 年齢、性別、信条、障害の有無などにかかわらず利用できる状態を保つことと
いった意味が含まれます。
この特定の団体に指定管理者が含まれるか否かというのはグレーゾーンですが、そこはその施設の設置の目的にもよるものと考えるべきでしょう。
例えばスペースのレンタルが目的であるならば、指定管理者が優先的に使用するのは許されなません。
一方、事業展開が主たる目的の施設ならば、ある程度の優先は許されると考えても、それほど大きな問題はないでしょう。
とはいえ、実際には、スペースをレンタルしている限りは、利用者優先という考え方を持っていた方が無難ではあります。
私たちの場合は、利用がないスペースと時間の隙間に、自主事業をはめ込んでいきました。
ここでも効果性と効率性と平等利用の狭間での悩みが生じたりもするのですが、ある程度やむを得ないと考えました。
いっぽう、指定管理団体以外の場合はどうすべきでしょうか。
企業でも人間でも、長い間同じ場所にいれば、当然多くのしがらみができます。
公の施設は地域の福祉の向上のために設置されているものであり、場合によっては企業よりもよほどしがらみが強くなったりします。
また、現在指定管理者制度が導入されている公の施設は、設置からかなりの年数がたっている場合が多く、真面目に運営していれば、地域や「常連さん」とのつながりは当然強いものになっています。
そこに指定管理者がやってくるとどの様な事態が生じるでしょうか。
このつながりを、あっさり断ち切ってしまう可能性もあります。
長らく利用している団体にたいして、それまでの管理者(多くは管理委託の受託者)が多少の便宜を図っているということは結構あります。
それを「癒着」として切り捨てることも可能ですが、地域とのつながりや、事業の展開、利用促進の立場から一概に切り捨てられない場合も多いものです。
そこへ、状況を把握していない指定管理者が入った場合、それまでの経緯を無視する形で「癒着」を切り捨てていくことになります。
これが本当に「癒着」であれば切り捨てるべきですが、それを見極めるまでの間は簡単には動けません。
平等性の確保は指定管理者に強く求められる項目でありながら、実はかなり難しい問題を含んでいるのです。
ちなみに、大阪府立青少年会館の場合は、1年かけて利用者との関係を洗い出しました。
その中で合理性に欠けると思われるものもいくつか出てきました。
それらに対しては、順次、または年度替わりの際に一斉に是正しました。
例えば、明らかに構成員の大半が私より年長で、すごく立派な舞台装置を組める劇団が、それまでの関係性の中で「青少年団体」区分で安価に利用していた案件では、私が珍しく激怒したものです(思い出しても腹が立つ)。
こういった案件はたとえ非合理的なものでも、急激な変化には大きな反作用が伴います。
一時的に利用率が急減する可能性もあります。
それを覚悟できるほどに
施設の設置の目的を指定管理者がどれだけ理解し、自分自身の中に確固たる基準を持つ
こと、言い換えれば
その施設のあり方を誰に問われても条例に沿って、明確に示すことができる
ことが必要なのだと思います。
ここに書いたようなことを腹におさめて取り組めば、指定管理者というのはなかなかに面白い価値を生み出せる仕事だなと思います。
今取り組んでいる皆さん、今後取り組む予定の皆さんへのエールになれば幸いです。