大学の域学連携とか産学連携とか言われる学習プログラムは実に多種多様です。
それらの中にはうまくいくものもあればいかないものもあります。
それはなぜでしょうか。

そこには、学習プログラムの設計に関する出来不出来が大きく関わってきます。
この辺を少しひもといていきたいと思います。

1. そもそもどうなればうまくいったといえるのだろう?

域学連携教育がうまくいったかいかなかったかを評価するときの視点ってどういうものがあるでしょうか。
大きく三つ考える必要があるのではないかと思います。

ひとつめは、どのような教育的効果があったかという視点です。
様々な活動を通して、どのような能力を発揮できるようになったかという点です。
人の能力というのは個別の文脈の具体的な行動の中で発揮されて初めてその存在が認められるものです。
何かの結果を出したときに動員した知識や考え方や行動の仕方こそが能力であり、その機会を提供できたかが教育的効果です。
それを可視化するために「○○力」の伸びといったことを測定するわけです。

二つめは、教育プログラムが適切に設計・運用されたかという視点です。
得られるべき教育的効果に対して適切なプログラムの設計と運用がなされていたかというのは重要な視点です。
同時に、地域や企業の側目的にも合致した設計・運用になっているかという点も強く意識をしておきたいところです。
地域にしろ企業にしろ大学教育の下請け機関ではありません。
対等なパートナーとして、それぞれの目的を尊重して設計・運用することが大事です。

三つめは、連携によってどんな価値が生まれたかという視点です。
大学の存在が、地域や企業の変革にどれほど寄与するのか。
同時に、地域や企業との連携が大学の変革にどれほど寄与するのか。
「産業界のニーズに応える」といった短期的なものではなく、連携することで共進化する関係を築くという、少し長期的な視点で見る必要があります。
これは、二つ目で触れた大学と地域や企業の対等なパートナーシップにもつながります。

では、それぞれについてもう少し詳しく見ていきましょう。

2. 域学連携教育の要件

域学連携教育の教育的効果を考える前に、そもそも域学連携教育として成立するのはどういう学習プログラムであるかという要件について見ていきましょう。
これについてはサービス・ラーニングの世界ですでに議論が進んでいて、次の三つの要件が上げられています

1. プロジェクト型学習
  問題発見、分析、課題化、解決の一連のプロセスを経験する中での学習
2. リフレクション(ふりかえり)
  仮説に基づく実践と検証、自らの行動に対する文脈を踏まえた意味づけ
3. カリキュラム統合
  カリキュラム上に位置づけられ教育的要素から切り離されていない

これらの要件を満たすように学習プログラムを設計するというのが、いわば前提条件です。
その上で、学習方法と学習活動をカリキュラムを通してどのように変えていくかを設計します。

学習方法に関して言えば、低年次では知識伝達型のアプローチの割合が大きくなりがちです。
どのような学問体系であっても基礎的な知識や概念の獲得は必要で、そこでは専門家である教員から「正しい」知識を学ぶアプローチはとても有効です。
ある程度の知識の基盤ができた段階では、それらを特定の文脈に適用する練習としての実験やフィールドワークと言った体験型のアプローチが採られます。
ある種の実践が始まるわけですが、この時点でも学習が生じる文脈は完全に固定され、いわば「筋書きのある」学習になります。
これらのアプローチに対して、学習が生じる文脈そのものをつくりかえることを学習として捉える考え方があります。
これは拡張的学習論(Engeström, 1994)と呼ばれるもので、

状況を変えるという取り組みの中で能力が発揮され、知が創造される学習

と表現できる学習方法です。
サービスラーニングであれ、インターンシップであれ、この拡張的学習として位置づけるところに意味があります。
大学に限らず学校という枠組みは基本的にバーチャルな学びの環境であり、状況を変えるということが不可能ではないまでも常態とできるほど簡単な環境ではないからです。
拡張的学習では、学生は仮説検証を繰り返しながら状況を変えることに取り組みます。
その際教員は、仮説的推論の支援者、もう少し簡単に言えば適切なリフレクション(ふりかえり)ができるための「ツッコミ役」としての関わり方をします。
これは研究指導に近いスタイルだとも言えるでしょう。

学習活動については、カリキュラムの進行に伴って、「浅い学習」から「深い学習」に進むように設計します。
ここで言う「浅い学習」というのは、「記憶する」、「名前を確認する」、「文章を理解する」といった知識の獲得に通じる学習です。
一方「深い学習」は、「原理に結びつける」、「離れた問題に適用する」、「仮説を立てる」、「ふりかえる」といった、すでに持っている知識を活用して新たな知を創造することにつながる学習です。
そして、この「深い学習」は、先ほど触れた拡張的学習の中でどんどん進むものだというのがわかります。

これらをまとめると、
域学連携教育として成立する学習プログラムは、

状況を変えるという取り組みの中で「深い学習」が促進されるようにカリキュラムレベルで設計されたプロジェクト型の学習

と言うことができます。

次回は、域学連携教育の事例として、私が直接携わった宮城県のCOC+事業での実践について少し紹介します。