われわれはどのようなビジネスをやっているのか、あるいはやろうとしているのか。
それを理解するための枠組みがビジネスモデルであり、それを構築発展させるのに重要な活動がマーケティングです。
今回はビジネスモデルの骨格とマーケティングの基礎概念、顧客に対する姿勢について見ていきましょう。
目次
1. ビジネスモデルを考える
ビジネスモデルを一言で言うと
企業が顧客に商品(製品、サービス、その組み合わせ)を通じて提供する価値に対して顧客が支払う対価を収益にするしくみ
となります。
少しまどろっこい表現ですが、ここにはまず、
企業と顧客
という二種類の登場人物がいます。
ビジネスの起点は顧客です。
顧客とは、自社が提供する商品で幸せにしたい、役に立ちたい相手と考えるのがよいでしょう。
誰を顧客とするかという問いは、自社の能力で誰を幸せにするかという問いです。
第一に、自社の能力で幸せにしたい、役に立ちたい顧客を定め、その顧客に対してどのような価値をどのような流れで提供するかを考えます。
企業支援の現場などで、「お客様はどんな方ですか?」と尋ねたときに「うちの商品に価値を感じてくれる人がお客様です」という答えを返されることがままあります。
この答えのよくないところは、
顧客のことを知ろうとしていない
という点です。
自社の商品に関して需要が圧倒的に多く「作れば売れる」状態であれば、それでもビジネスは成立するかもしれません。
その場合でも、競合他社が自社より少しでも顧客の意向をくみ取って商品を提供すれば、途端に自社は顧客を失います。
もっと平たくいえば
顧客がいなければ企業は存在できない
ということです。
次に、企業と顧客をつなぐ大きなプロセスとして
①顧客に価値を提供するための商品を企画・生産・販売する=バリューチェーン
②顧客から支払われた対価から十分な利益を得る=収益構造
の二つが含まれていることがわかります。
これらのどちらかに優れた点があると、それは競合他社に対する差別化要因、つまり(表面に見える)強みになります。
2. ビジネスモデルの構成要素
ビジネスモデルのコアとなる構成要素は以下の四つです。
①顧客
先にも書いたように顧客はビジネスの起点であり、自社の能力で幸せにしたい、役に立ちたい相手です。
その顧客が、どのような満足や便利さを求めているかというニーズに加えて、どのような制約条件を持っているかを明らかにする必要があります。
詳しくは「第7回 顧客戦略」の回に紹介しますが、簡単に言えば
時間や金をどれだけ使えるか
どれだけ個別対応を求めるか
の二軸で捉え、それが企業の能力・資源とうまく合致するかを検討する必要があるということです。
②価値
商品を通じてどんな価値を提供するかという点です。
商品の表面的な機能ではなく、顧客のどのような欲求を満たしているのかについてひもときます。
商品がどのような使われ方をするか、どのような意味づけをされるかを深掘りします。
そうすることで、たとえば
女子高校生にとって、SNS使い放題の格安SIMがハンバーガーショップのコーヒーの代替品になる
可能性なども考えられるようになり、自社が新規参入できる市場を幅広く見極めることが可能になります。
よかったら頭の体操として考えてみてください。
③バリューチェーン
顧客が求める価値を生み出し提供する流れです。
おおまかに、
企画⇒生産⇒販売
の三段階のどこに、どのような工夫をすれば、うまく価値を生み出すことができるか。
それぞれ顧客のニーズと制約条件にうまくフィットするように調整します。
この部分の詳細は「第8回 価値創造」の回にご紹介します
④収益構造
商品を提供して得られる対価を利益に変えるためのしくみです。
顧客にとって全体として便益が大きくなるようなしくみを作ることで、高収益を実現します。
このあたりの詳細は「第9回 価格戦略と利益モデル」でご紹介します
3. 顧客との関係を考えるマーケティング
ビジネスモデルを考える際に切り離せないのがマーケティングです。
マーケティングについて、American Marketing Associationは1985年に
Marketing is the process of planning and executing the conception, pricing, promotion, and distribution of ideas, goods and services to create exchanges that satisfy individual and organizational objectives.
マーケティングとは、個人および組織の目的を満たす交換を創造するための、アイデア、商品・サービスの構想、価格設定、プロモーション、流通を計画・実行するプロセス
と定義をしました。
企業と顧客の価値交換とは商品価値と代金の交換ですので、この定義は平たく言うと商品が売れる状態を作るための
Product(商品)、Price(価格)、Place(流通・販路)、Promotion(広報)
の四つの項目について計画し実行することと言い換えることができます。
よく耳にする「マーケティングの4P(マーケティングミックス)」とは、これら四つの頭文字を集めた表現です。
4. マーケティングミックス
マーケティングの4PはProduct(商品)、Price(価格)、Place(流通・販路)、Promotion(広報)の四つの観点から企業にとって最適なマーケティング手法の組み合わせを考えるフレームワークです。
詳細は、「第7回 顧客創造」「第8回 価値創造」「第9回 価格戦略と利益モデル」でも扱いますが、ここでは簡単にそれぞれの要点だけ紹介します
①Product(商品)
商品の価値やコンセプトを明確にし、それを可能にする生産プロセスを設計します。
さらに、商品のライフサイクルや普及プロセスを見極め、利益を得る方法を考えます。
②Price(価格)
商品、特に新商品の価格設定についての考え方と手法を組み合わせます。
たとえば、市場シェアが最終的な利益の源泉だとしたら、最初は利益を無視してでも市場への浸透を図る、といった具合です。
また様々な製品とサービスの組み合わせによって、より収益性の高い価格を設定することも考えられます。
③Place(流通・販路)
流通チャネルの選択と管理について考えます。
わかりやすいものとしてはネットとリアルの選択や、BtoBかBtoC、DtoCの選択があげられます。
もう少し深掘りすると、バリューチェーン(企画、生産、販売)のどの部分に自社が注力するかという議論にもなります。
④プロモーション(広報)
広報、広告、販売促進のそれぞれをどうつくるかという観点です。
これら三つを明確に識別し、適切な手法を設定します。
5. マーケティングの進化
ここまで、American Marketing Associationが1985年に示した定義に基づいてマーケティングの概略を見てきました。
マーケティングミックスは今でも十分に使えるフレームワークですが、一方でマーケティングに対する考え方は特に今世紀に入って大きく進化しています。
American Marketing Associationによる2017年の定義では
Marketing is the activity, set of institutions, and processes for creating, communicating, delivering, and exchanging offerings that have value for customers, clients, partners, and society at large.
マーケティングとは、顧客、クライアント、パートナー、および社会全体にとって価値のある商品を創造、伝達、提供、および交換するための活動、一連の制度、およびプロセス
となっており、システムやマネジメントを包括する概念になっています。
マーケティングミックスはプロセスの一部に相当しますが、それらを適切に動かすしくみや全体のマネジメントまで包含する概念になっています。
さらに、大きな変化として、顧客だけではなくパートナーや社会全体との関係性も含むようになっています。
これは企業と顧客、周囲の関係者で価値を共創し、社会全体のバリューを高めることを意識しているように見えます。
もはや企業活動そのものをマーケティングと呼ぼうとしているのかと思えるほどです。
6. 中小企業のマーケティング
ここまでマーケティング概念を大まかに見てきました。
これを中小企業の現場で実行する際にはなにを意識すればよいでしょうか。
基本方針としては
顧客との相互理解に基づく長期的な関係構築・強化
ということになるでしょう。
それは、
①顧客のニーズと制約条件が自社の能力・資源とうまくフィットするしくみ
②顧客、信頼され、愛され、紹介されるような関係
を作ることに他なりません。
これらに共通することは
顧客に常に興味を持ち続ける
ことであり、それを個人の力ではなく、組織の力で実行することが重要です。
わたしが尊敬する経営者のおひとりは、よくこう言っていました。
「経営者として、利益に対する純粋で絶対的な興味を持っているか」
その言い方にならえば
「我々は顧客に対する純粋で絶対的な興味を持とう」
というのが今回の一番のメッセージになりそうです。
次回は市場戦略の根本原理をミクロ経済学の視点からシンプルに考えます。