自社が顧客の中でどのような位置取りをするか(ポジショニング)は、顧客の定義と商品の定義の重なる部分になります。
顧客についてはセグメンテーションからターゲッティングという流れの中で、ニーズもさることながら制約条件を意識する必要があるという話をしました。
今回はもう一つの要素である商品について考えます。

1. 商品の価値

自社の商品の一番の価値をどこに置くかというのは、きわめて重要な課題です。
どのような商品にも、その商品が絶対に持っていなければならない価値、言い換えれば、最低限果たすべき機能があります。
自動車を例に挙げれば、人や物を積む、走る、曲がる、止まる・・といったことができないと意味がありません。
どれほど美しいスタイリングであっても、まっすぐ走れない車を買いたいと思う人はいません。
このような価値を基本価値と言います。

すべての商品は、それに求められる基本価値を持っていることが前提になります。
その上で、さらに顧客にとっての便益を大きくする価値を付加価値と言います(財務の話の時には違う意味で使いますがお許しください)。
基本価値に差がないような商品を扱う場合、この付加価値をどう作っていくかを考えることになります。

付加価値には大きく以下の三種類があります。

①便宜価値:顧客が「便利だ」と感じる価値です。
 商品そのものではなく、その提供の仕方で便利さを生み出すこともできます。
 支払い方法や配送の方法、分割の方法など、配送のスピードなど様々な形で提供できる価値です。
②感覚価値:顧客が「いい気分」になれる価値です。
 優れたデザインや、高級感といったものがこれにあたります。
③観念価値:顧客が「特別な意味」を感じる価値です。
 例えば環境負荷が小さい商品や匠の技で作られたものというのは、商品そのものよりもそれが生み出されるプロセスないしは物語が価値を発揮するものです。
 それはすべての消費者が共通に感じる価値ではありませんが、感じる人にとっては

  より高い金額を払う理由

  になるものです。

基本的に、BtoBのビジネスでは、基本価値、便宜価値の二つの価値と価格によって購入するかどうかが決まります。
一方、BtoCのビジネスの場合には、人によって感覚価値や観念価値が大きな割合を占めることもままあります。
自社のビジネスのスタイルによって、どの価値を高め訴えるかを定める必要があります。

2. 商品の分類

自社のビジネスのスタイルによって、高めるべき商品価値と同時に使い方や購入のパターンも変わってきます。
BtoBのビジネスで、顧客が自社商品を原料としてさらに別の商品を作る場合、これを生産財と呼びます。
生産財は基本価値・便宜価値と価格のバランスで購入するかどうかが定まります。
基本価値で差がつきにくい商品の場合はどのような便宜価値を付加するかが重要なポイントになります。
スピードや即応性といった、相手企業の収益が高まるような価値をつけて、それを訴えることで購入を促進します。
少し乱暴な言い方をすれば

相手のしわ寄せを吸収してなんぼ

ということになるでしょうか。
これは資源の少ない中小企業の基本的な活動スタイルです。

生産財に対してBtoBでもBtoCでも、購入した顧客が最終的に消費する商品を消費財と呼びます。
消費財であってもBtoBの場合は基本価値・便宜価値と価格のバランスで購入するかどうかが定まります。
一方、BtoC では付加価値の幅が広くなり、感覚価値や観念価値が購入の引き金になることもままあります。
一般的には、これらの商品は購入頻度(と単価)で分類します。

食料品や日用雑貨のように、習慣的に購入する比較的安価な日常の消費財を最寄品と言います。
この種の消費財は、基本価値と買いやすさに個人の好みが組み合わさって購入のパターンが作られます。
「近所のスーパーで買える、自分好みの味のビール」などは典型的な例でしょう

電機製品や衣料品等、1年〜数年に一度購入する少し高価な商品を買回品と言います。
数年間使うことを想定する商品ですので、一定の品質を求めます。
そのため、

自分が知っているものの中から、よいと感じるものを選ぶ

という購入の仕方になります。
こういった商品では、

顧客の頭の中で自社商品が思い浮かぶ(マインドシェアを獲得している)こと

がとても重要です。
また、他社商品との比較して自社商品の優位性を強く印象づける必要があります。
適切なポジショニングが特に必要な領域だと言えるでしょう。

最後が、自動車のようにめったに購入しない高額商品で、専門品と呼ばれます。
年収に匹敵する、またはそれ以上の価格のものをイメージするとわかりやすいでしょうか。
こういった高額商品は、特に失敗したくないものですので、信頼性の高いものを選ぶ傾向にあります。
また、様々な観点から詳細な比較をし、ライフステージや資金を意識してじっくり考え、計画的に購入します。
こういった商品では、高い専門性を持って、顧客のライフステージを意識した長期にわたる価値を提案ができることが求められます。

たとえば、住宅を販売する場合・・
今は夫婦二人だけれど、将来子どもができて成長すると想定したら、それに合わせて間取りや設備の提案をするでしょう。
さらに子どもたちが独立したあとのイメージも提案できるとよいかもしれません。
その時には別の家で暮らせるようにする提案やリバースもゲージの提案もあり得るでしょう。
そこまで設計して、長期間にわたる価値を見せることで、買いやすくなります。

3. 商品のライフサイクル

頑張って開発し、一所懸命顧客に届けている商品でも、英会陰に売れ続けると言うことはありません。
始は上がった売上利益もやがては横ばいに成り下がっていきます。
これが、商品のライフサイクルです。

商品のライフサイクルは大きく四つの時期に分割して考えます。
①ほとんど知られていない時期=導入期。
 市場分析して商品を投入するものの、どれほど受け入れられるかはまだ未知数の段階です。
 売上はほとんどなく、投資が先行するため利益はマイナスですが、市場が拡大した場合の利益率を推定し、進むか退くかの判断をします。
 全く読めない市場の場合は、小さく投資して様子を見て追加投資をする、といった方法も効果的でしょう。
 野球で塁に出たランナーが「リード」をとるのをイメージしてみてください。
 ランナーは、牽制球が来れば難しければすぐに戻れ、チャンスがあれば次の塁に進める、そんな位置取りをしています。
 先の見えないビジネスでは、この「リード」が大きな意味を持ちます。
 詳しくは「リアルオプション」や「創発的戦略」のテーマの時にお伝えします。
②ある程度市場ができて売れるようになると、競合も現れ、それがまた市場を大きくします=成長期。
 競合が現れますので、顧客の意識の中で自社商品が思い浮かぶ状態(マインドシェアの獲得)を作ることが大切です。
 そのために広告に力を入れますが、同時に人材や設備の投資も大きくなりますので、キャッシュの確保が大きな課題になります。
 とにかく投資して、人もよい人を入れ、広告も出し、市場を取っていく、そんな攻めの時期です。
③市場の拡大はやがて限界に達し、売上も頭打ちになります=成熟期。
 売上は伸びなくなっても、効率化が進んでそれなりの利益を上げられる状態です。
 その利益でキャッシュを確保し、次のビジネスに備えます。

 成長期に活躍したエース級人材は引き上げ、次のビジネスの準備に投入し、既存事業はしくみで回すようにします。

 このタイミングで遅れて参入してくる競合にビジネスを売却するという意思決定もあり得ます。
④成熟期を超えるとやがて売上も利益も下り坂になります=衰退期。
 衰退期に売上を支えようとするのは、非常に大きなエネルギーを必要とします。
 しかも、それは衰退のスピードを弱める力しか持ちません。
 この時期になったビジネスや商品からは、できるだけ素早く撤退するのが望ましいです。
 その間に次の商品を市場に投入し、新たなビジネスを作っていきます。
これをいくつも重ねていく。

4. 商品の普及

商品のライフサイクルは、商品が市場に普及する道のりと言うこともできます。
そしてそれは、市場の中にいる感度の高い顧客から低い顧客に商品が浸透していく道のりでもあります。

M.Rogersが示した「イノベーションの普及」という考え方は、商品のライフサイクルと重ねてみると意味がよくわかります。
Rogersは消費者を新しい商品や考え方に対する反応の仕方で五つのカテゴリーに分類しました。

①イノベーター:新しいものに最初に飛びつく「変わり者」です。
 新しいものであれば飛びつく人たちですから、コストをかけて訴求することにあまり意味はありません。
 彼らが飛びついた商品が広く普及するという保証もありません、振り回されないようにすべき相手です。
②アーリーアダプター:比較的に早い時期に手を出し、それを拡散するオピニオンリーダーです。
 最新型のiPhoneやMacBookを買って、スターバックスで仕事をしてみせる人、というのがわかりやすいイメージでしょうか。

 商品の便益に対して大きく反応し、情報を拡散する傾向がありますので、この層にはコストを投入してでも浸透を図る必要があります。

 商品のライフサイクルで言えば、導入期から成長期への切り替わりにあたります。
③アーリーマジョリティ:アーリーアダプターの様子を見て、実績や信頼性を判断して購入する層です。
 アーリーアダプターにかけたコストが、アーリーマジョリティの確保につながります。
 使ってみた感想を言いやすい、写真を撮りやすい、発信しやすい状況をつくると、アーリーマジョリティーの反応もよくなります。
 アーリーアダプターに提供するとき、次に勧めるためのネタを提供することを考えます。
④レイトマジョリティ:世の中に十分広がったものに手を出す、やや保守的な層です。
 この層が購入する頃には商品は成熟期に入ります。
 この頃には十分な認知がされていますので、広告などもおさえ、業務プロセスもマニュアル化を進めるなどできるだけコストを下げていきます。
⑤ラガード:新しいものを受け入れにくい極めて保守的な層です
 この層にはコストをかけるだけむだですね。
 その分は次の商品に投入しましょう

商品の価値をどのように設計し、市場にどう浸透させていくかという課題に対する戦略が商品戦略です。
みなさんの会社で取り扱っている一つ一つの商品について、今回の流れに沿って見直してみると力を入れるべきポイントがはっきりしてくると思います野で、ぜひご活用ください。

次回は、バリューチェーンのどこをおさえて利益を得るかについて考えます。