前回、中期ゴールに至るためにクリアすべき戦略目標を、①財務の視点。②顧客の視点、③プロセスの視点、④学習と成長の視点という四つの視点で洗い出し、その関係を戦略マップに落とし込むという戦略立案の方法について紹介しました。

財務の視点では、「現在の利益」と「将来の利益」のために社内のリソースをどのように分配するかというトップの意思決定が求められます。
顧客の視点では、顧客のどのような制約条件に対して応えていくかということを定めます。
これらの上位の戦略目標(Objective、重点課題)が定まったところで、いよいよ具体的にどのような活動を進めていくかということを考えるようになります。
それが

プロセスの視点

です。

1. プロセスの視点

前回の復習になりますが、顧客の視点で考えた提供価値や顧客への対応を実現するために、企業の内部でどのようなプロセスを強化するかということを考えるのがプロセスの視点です。
これは、

①業務管理のプロセス:(特に既存)ビジネスを効率的に回すためにバリューチェーンをどのように改善するか
②顧客管理のプロセス:顧客との関係性をどのように構築するか
  ・・・既存ビジネスなら顧客の維持と発展、新規ビジネスなら顧客の選別と獲得がテーマ
③イノベーションのプロセス:新たなビジネスを生むためのしくみをどう作るか

の三つに分かれ、「現在の利益」に対しては①と②の顧客の維持・発展が、「将来の利益」に対しては②の顧客の選別・獲得と③が重要なテーマになります。

2. 業務管理のプロセス

業務管理のプロセスでは、自社のバリューチェーンの企画、調達、生産、物流、販売の各部のどこを強化するかについて考えます。
企画については、売上予測、販売戦略(販売に特化した方針、課題、投入資源)、売価設定、商品コンセプト、目標原価の設定のどこを強化することで収益が上がるかを考えます。
生産については、どのような生産管理在庫管理をするか、それが顧客への対応(ローコストか、高品質化、個別対応か)の方向性に合っているかという視点でしくみを整えます。
販売については販売戦略に基づいて適切な価格とチャネルで販売できているか、そこで目標原価を実現できるような原価管理改善が進むかという視点でしくみを整えます。
調達と物流に関しては、適切な時期、量、価格、品質を保つしくみを整えることを考えます。

ここでのポイントは、

企画段階で目標原価を定める

という点です。
多くの場合、製造にかかる仕入れや直接労務費などはわかりやすいですが、最終的に発生した原価は、どれだけ売れたかによって変わります。
したがって、いくら売上を上げるか、そのためにどのような売り方をするかまでを考えて、最終的な原価の目標を設定します。
その上で、プロトタイプ(製造業だけでなくサービス業でもできます)を作り、見込みを立てて生産に進みます。

この企画部分が十分に強化されると、それを起点としてすべてのプロセスが回るようになります。
その過程で生産管理、在庫管理、原価管理を進めていくわけです。
こういった考え方をValue Engineering(価値工学)といいます。

3. 顧客管理のプロセス

顧客管理のプロセスは、顧客との関係性を構築するプロセスで、大きく

①顧客の選別
②顧客の獲得
③関係の維持
④関係の発展

という四つの段階に分かれます。
①と②は新規顧客の開拓、③と④は既存顧客との関係性強化と考えてよいでしょう。
これらの詳細は 第8回  顧客からファンへ、そして仲間へ・・・それがブランディング で紹介していますので、そちらを参照してください。

4. イノベーションのプロセス

プロセスの視点の最後はイノベーションのプロセスです。
イノベーションとは

経済活動の中で様々な手段や資源を再結合する

こととされています。
これはシュンペーターが著書「経済発展の理論」の中で述べていることですが、この時点ではまだイノベーションという言葉は使っていなかったようです(豆知識)。
イノベーションというと、突飛なアイデアが必要なイメージを持たれるかもしれませんが、必ずしもそうではありません。
例えば、私が普段使っているiPhoneはiPodと携帯電話の再結合でできたものですし、iPodも、携帯可能な小型ハードディスク(今はSSD)、音楽のデジタル化のしくみと配信システム、再生ソフトなど、当時既に存在したものを組み合わせて、そこに「すべての音楽を持ち出す」という新しい意味づけをすることで生まれたものです。
このようなことが起こるために、天才的な人のアイデアではなく、社内のしくみや相互作用(知識や知恵の交換)を進めるのがイノベーションのプロセスです。
これは

①イノベーションの種を見いだす
 ・・マクロ情報や顧客の要求に隠れています
②変えるものを決める
 ・・商品の意味や価値、価値創造のプロセス、価値創造の役割分担を変えることを考えます
③仮説検証
 ・・小さなプロトタイプで仮説検証と修正を繰り返します
④戦略更新
 ・・実現可能性の高いものを戦略に組み込み投資します

という四つの段階からなります。
特に仮説検証をできるだけ高速で繰り返すことができると、より精度の高いものを生み出せる可能性が高まります。

プロセスの視点でクリアすべきことが見つかると、それに適した人や組織を育てることになります。
それが学習と成長の視点です。
この点は次回のお話としましょう。